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赤司君は感情の読めない茫洋とした眼差しで此方を見つめ返してきた。
その眼差しから苛立ちを感じ、自分の肝がスッと冷えていくのを感じた。
普段は味方だから気づきにくいけれど、赤司君の目を真正面から見据えると蛇に睨まれた蛙のように、心臓がキュッと掴まれて嫌な汗が流れてきそうになる。
フッと赤司君が息を吐いた。そこで初めて私は赤司君が今まで息を詰めていたことに気づいた。
「桐皇が大輝……いや、青峰を出さないのだとしたら、僕達の危惧すべき相手は陽泉だけになるね」
けれど、そのことを赤司君が喜んでいるとは、この場にいる誰一人として思っていなかった。
「しかしそれでは面白くない」
低くなった声に、数人の女子マネージャーが肩を震わした。
赤司君は右手でペンを弄びながらその両目に底冷えのする鈍い光を携えて暫し沈黙した。
唐突にペンの動きが止る。
「今後僕は試合に出ない」
ひゅっ……。声を出そうとして、喉が張り付いて声が出せなかった。
視界が揺れて、手足の先の感覚がわからなくて、自分が震えているのだと漸く気づいた。
「ちょっと征ちゃんそれ本気!?」
実渕さんの動揺した声が微かに聞こえた。周りもガヤガヤと喧しくなる。
でも私にはそれが全てガラス窓一枚隔てて見、聞いているものにしか感じられなかった。
分厚い、分厚いガラス窓に隔てられてのようにしか。
「決めたことだ。……それとも玲央は僕がいなくては青峰抜きの桐皇に勝てないというのか」
赤司君の鋭い眼光に椅子から腰を浮かせて前屈みになっていた実渕さんが怯んだ。
まだ少し青白い顔のまま、椅子に座り直す。赤司君は立ち上がり戸の前まで歩くと、立ち止まって此方を振り向いた。
「大丈夫。僕はお前らを信じている」
目を細めて笑むその姿はとても綺麗で、でもどこかゾッとするような雰囲気を兼ねていた。
その日、初めて私は赤司君を恐れた。
第十六話「IH〜準決勝〜」→←第十五話「IH~海常VS桐皇~」
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