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今振り向いてはいけない気がする。する、のに体は勝手に動く。
まるでもうネジを巻いてしまった人形のように、ぎこちない動きで振り返る。
プールサイドに腕を組んで立つ人。逆光で翳る中光る鮮やかなマゼンタの髪と双眸で色の違う目。目が合っただけで宝石みたいなその目に目を奪われる。世界が、一瞬で赤と金に染められる。
「……ご機嫌どうですか、エンペラー」
「絶賛垂直落下中だよ」
ハハッ。乾いた笑いが響く。
(……ああ、大激怒していらっしゃる)
カーン。自分終了の鐘が聞こえた。
赤司君は右手に持ったデッキブラシの柄で地面を叩いた。
「掃除しろ」
瞳孔を見開いた真顔で言った。有無を言わさぬ顔で。
私と黛さん、葉山さんや根武谷さん、それに何故か実渕さんまでがビシッと背筋を伸ばして敬礼のポーズをとった。
「はいっ!」
さっきまでのだらだらとした動きが嘘みたいに、皆きびきび動いた。
それから約三時間後、神様が空に水をたっぷり含ませた朱色を塗り始めた頃、漸くプール掃除は終わった。
帰り道。学校近くのコンビニに寄って棒付きアイスを食べる。
私はと黛さんはソーダ、茜は苺、葉山さんがオレンジで根武谷さんが葡萄。赤司君と実渕さんはレモンだった。
「明後日の試合に買ったら東京か〜。俺、スカルツリー行きたい!」
既にアイスを半分程食べてしまった葉山さんが目を輝かせて言う。
それに対しまだ一口しか食べていない実渕さんが呆れた顔をした。
「遠足じゃないのよ。遊びに行く暇があるなら練習しなさい」
「俺、ちゃんとバスケするって!でもさ、折角東京行くんだよ?」
葉山さん、必死に説得を試みるも聞き入れてもらえない。
その葉山さんに図らずも手を差し伸べたのは、意外にも黛さんだった。
「……まあ、俺も会場が池袋に近かったらサンシャイン通り行きたいな」
「でしょっ、でしょでょ!」
ぱあっと顔を明るくして、葉山さんが黛さんに迫る。黛さんは狭いと言って押し返した。
それで調子に乗ったのだろう。葉山さんは、我関せずといった表情で読書をしていた赤司君に声をかけた。
「赤司もそう思うだろ?」
傍で茜が「いやないでしょ」と小声で言うのを聞きつつ様子を見る。
「まあ、明後日の試合で活躍するなら考えておくよ」
「よっしゃー!」
赤司君にのせられた葉山さんを憐れみつつ棒だけになったアイスをゴミ箱に投げ入れた。
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