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「ぬあああ！！止めろオオオ！！」
プール内を走り回る根武谷さんの後ろを物凄い音を立てながらホースの水が追いかける。
ホースの水を気にする余り、根武谷さんは元々プールの底にぽつぽつと散らばっていた水たまりの一つに足を取られて転んだ。派手に水が跳ね上がる。
「さて、あとは……」
「お前と俺だけだな」
プールを挟んで向こう側に立つ黛さんは、いつの間にかバケツから私と同じようにホースを持っていた。
両者睨み合う。蛇口を最大まで捻り、じりじりとプールサイドに近づいていく。
「終わりにしましょう」
「ああ」
同時に相手にホースの先を向けた時だった。元々短かったホースがプールに近づいた際限界まで伸ばされたらしく、ぴんと張ったホースが勢いよく引っ張られ、蛇口とつながっていた部分が取れてしまった。
「わっ」
「おわっ」
二人共前のめりになってプールの中に落ちた。
背中が痛い。けれど幸い頭は打たなかったみたいだ。
痛む背中を左手で抑えつつ前の方に目を向ける。
私の真ん前に、同じように背中を押さえて蹲る黛さんがいた。
ボトッと音がして、上から、まるでマカロニが床に落ちる様子をスローで見ているみたいに緑色のホースが二本、プールの底の丁度真ん中ら辺に落ちた。
先端から水が流れて排水溝の方に流れていく。
「ちょっとー！！」
突然、上からかん高い声が聞こえた。
どう聞いても、私の耳に残っている実渕さんの声とは違う気がする。
顔を上げると、同じく困惑した表情の黛さんの顔がそこにあった。
二人同時に顔を上に向ける。
「あんた達何して……何してるんですかッ！！」
そこにはプールサイドからこちらを覗く茜がいた。何故かずぶ濡れである。
「それは……諸事情がありまして」
「そ、そう。諸事情」
初めて黛さんと心があった瞬間である。そして恐らく今後永遠にないことだろう。
「ところでよ、北村どうしてずぶ濡れなんだ？」
その瞬間茜の顔が一気に赤くなった。しかしそれは規律に厳しい茜のこと。
先輩に怒鳴るようなことはせず、一つ大きく息を吸ったり吐いたりしてから
「とあるお二人さんの水遊びに私も巻き込まれてしまって」
にこり。黒い、黒いものが見える笑み。さしもの黛さんも顔を引き攣らせる。
ちょっと待て。今、「私も」って言わなかったか。「私“も”」って。
急にゾクリと悪寒が走った。結構ヤバい系の。
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