相も変わらず ページ36
高杉side
…そうして、季節は過ぎ去っていく。世界を白に染め上げるような寒々しい冬が終わり、待ち構えていたかのような暖かな季節がやって来た。春。待ってました、と言うかのように桃色が咲き誇り、ひらひらと宙を舞っては落ちていく。そんな様を今年も俺は彼女と見ることが叶った。
『桜が好きなの』と、彼女は言った。
その言葉を聞いた桜並木に、俺達はまた訪れていた。まるで、雪のように舞い散っていく桜を見つめては、A はうっとりとその景色に見いっていた。俺の隣に並んでいる彼女は、春風に長い黒髪を揺らし、春独特のにおいに混じって彼女の甘いかおりが鼻をくすぐる。
…こうして隣に居られることも、当たり前ではないのだと。そう思うと、この場所でこうしてまた桜を見られるのは、とてつもなく幸福な出来事な気がした。今に関わらず、彼女と居る一秒一秒が、一瞬一瞬が、きっと奇跡なのだと、俺は思う。らしくもないし、なんだかクサイ台詞だから、口には出さないけれど。
でもきっと、そんなクサイ言葉でも、彼女は嬉しそうに笑ってくれるのだろう。
「…綺麗だね」
「あァ」
…目を細めて、彼女は桜に見いる。眩しいものでも見るように、Aはヒラリと風に舞う桜の花弁を見据えている。その横顔は、相変わらず綺麗だった。俺はその顔に見いってしまう。それでも、俺の視線に気づかないらしいA。やはりそれが、今年も不服であった。
…人間というものは、一年やそこらで変われるようなもんじゃないらしく、俺は相も変わらず桜に見惚れる彼女に不満を覚えてしまう。散っていく桜に、どうしようもなく嫉妬をしてしまう。Aの口からたまに出てくる、同僚の男の名前を聞いた時と、同じように。
「…A、」
「ん?何?」
そう俺が声をかけるも、Aは桜を見つめたままだ。俺はそれに口をへの字に曲げる。桜がすべて散らないと、彼女はこちらを見ないのではないかとすら思ってしまう。そんなことは、きっとないのだけれど。
…なんとか、こちらを向かせる方法はないものか。
…なんて、実はもうそれは、既に用意を済ましてあるのだが。
「…結婚するか」
「……え?」
俺がそう不意に言葉にすると、彼女は漸く、俺の顔を見据えた。丸っこい、黒い瞳に、俺がいっぱいに映るのを見て、俺は口角を上げた。真ん丸になったその目には、満足げな俺が居た。
84人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ピピコ(プロフ) - 返信が遅れてしまいごめんなさい!!すずさん!ありがとうございます!高杉さんオチ現パロということで、難しいところもたくさんありましたがそう言って頂けるなら書いて良かったなと心から思えます!こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました!! (2018年4月11日 15時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - あああああ!!ほんとにキュン死しそうでした!!(〃ω〃) 素敵な作品と私を出会わせてくれて、ありがとうございます!! (2018年3月21日 4時) (レス) id: 243c6c39f4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 紫音さん» 紫音さん!ありがとうございます!!感動して頂けましたか…!?切なく甘く、を目標に頑張りました!!初めての高杉さんだったので、試行錯誤しながらでしたが、お楽しみ頂けていたなら嬉しいです!!最後まで読んでくださり、ありがとうございました!! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月猫さん» 月猫さん!いつもありがとうございます!叫びたくなりましたか…!初めての高杉さんのお話で、うまく書けているか不安しかないのですが、お楽しみ頂けたなら幸いです!また高杉さん書けたらいいなと思ってます!最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 完結おめでとうございます!とっても感動しました! (2017年11月24日 5時) (レス) id: b88bd76db6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月24日 16時