その声 ページ29
Aside
……涙が止まらなかった。目から零れ落ちていくそれを止めることが出来ないまま、私は夜のきらびやかな街を走った。時折すれ違う人達にギョッとされたりもしながら、それにも構いはせず、ただただ走った。
私の足は無意識に、あの場所に向かっていた。別に、何処に行こうとか、そういう考えもなしで、まるで何かの本能のように、あの場所に走っていた。あそこに行ったら、何が変わる訳でもないけれど。それでも、でも、私の足は、涙と同じように止まることをしらない。
グイッ、と、私は涙を乱暴に服の袖で拭った。前までは、私が泣いたときは隣に寄り添って、涙を拭ってくれる暖かくて優しくて、大きな手があったけれど、今はそれがないから、自分で拭うしかない。色んな感情をすべて飲み込んで、それでも歩いていかなきゃならない。大人とは、そういうものだ。
一人きりでも、孤独でも、足を止めることなく歩き続けなければならない。足を止めることは許されない。そういうものなのだと、私は最近になって理解した。それでも、人はぬくもりを、誰かと共に歩くことを望んでいるから。
……私はそれでも、晋助と歩いていくことを、彼の隣にいることを、望んでいるから。だから、今は一人で人混みを潜り抜けながら走っている。そこに彼がいるはずもないと分かっているのに。滑稽だと、バカだと、間抜けだと、そう言われたとしても、足を止めたりしない。
ぼやけていく視界。それでも、浮かび上がる涙を拭って。
……そうして私は、そこに辿り着いた。
遠くから、車が走る音や、電車が走る音が聞こえてくる。人は私以外一人もいなくて、静かなこの桜並木を、街頭の明かりだけが照らしている。冷たい光が、冷たい空気を照らしている。
「…ッ、はぁ……はぁっ…」
弾む息。弾む鼓動。それらを整えるように、私は荒い呼吸を繰り返した。
『付き合うか』
…と、彼は言った。唐突に、何の予告もなく。そう言った。ずっと、ずっと好きだったから、晋助がそう言ってくれて、すごく嬉しかったのを鮮明に覚えている。私の髪をすくいとって、優しく口付けした瞬間も、私を抱き寄せてくれた暖かさも、触れた熱い唇も、全部覚えている。桜が舞い落ちる、その速度も。
…目を閉じれば、あの日の記憶が、流れてくるようだった。
「…晋助…、」
…好き、ごめんね、好きだよ。
そう、小さく小さく、呟いた瞬間。私の後ろで、足音がした。そして。
「ーーA」
…聞こえた、その声。
…間違えるはずが、なかった。
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ピピコ(プロフ) - 返信が遅れてしまいごめんなさい!!すずさん!ありがとうございます!高杉さんオチ現パロということで、難しいところもたくさんありましたがそう言って頂けるなら書いて良かったなと心から思えます!こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました!! (2018年4月11日 15時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - あああああ!!ほんとにキュン死しそうでした!!(〃ω〃) 素敵な作品と私を出会わせてくれて、ありがとうございます!! (2018年3月21日 4時) (レス) id: 243c6c39f4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 紫音さん» 紫音さん!ありがとうございます!!感動して頂けましたか…!?切なく甘く、を目標に頑張りました!!初めての高杉さんだったので、試行錯誤しながらでしたが、お楽しみ頂けていたなら嬉しいです!!最後まで読んでくださり、ありがとうございました!! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月猫さん» 月猫さん!いつもありがとうございます!叫びたくなりましたか…!初めての高杉さんのお話で、うまく書けているか不安しかないのですが、お楽しみ頂けたなら幸いです!また高杉さん書けたらいいなと思ってます!最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 完結おめでとうございます!とっても感動しました! (2017年11月24日 5時) (レス) id: b88bd76db6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月24日 16時