名前 ページ17
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…ボフンッ、と。
自室のベッドに私は飛び込んだ。スプリングがあまりきかないそのベッドに横になり、私は「ああああ…」という謎の声を漏らしていた。部屋にはその声と、外から微かに聞こえてくる車の音が満ちていた。
仰向けになり、天井を仰ぐ。飾り気のない、ただの白い天井。そんなものを見ていたって、現状は何も変わらない。溜め息を何回ついたって、何も変わらない。当たり前だ。現に私は、何もしていない。何も出来ないでいる。
「……私は、どうしたいの」
……自分で自分に問い掛ける。何がしたいのか。何を望んでいるのか。モヤモヤとした何かは、私の中で渦を巻くそれは、私の感情だ。あまり澄んではない、純粋ではない。淀んでいて、けれどとても切実で、心からの本心。
……その形が分からない。
……何を望むのか。
……何をしたいのか。
「…分からない」
…結局、自問自答の答えは、そんなものだ。どうしようもない。
手持ちぶさたで、私はなんとなく鞄から携帯を取り出した。液晶をつける。電気がついていない、月の光だけが淡くこの部屋を照らしていた。そこに、人工的な光が現れる。時刻はもうすぐ、日にちを跨ごうとしていた。
…早く寝ないとなぁ、なんてことを思いつつ、スマホをいじってしまう。
……開いたのは、アドレス帳。
あいうえお順に並んでいる名前。下へ下へと指を動かしていく。そして、目に入るそれ。
『坂田銀時』
「…、」
…ごめんね、と。私は無意識に口にしていた。今ここで、そんなこと呟いたって何にもならないのに。彼は、今ここに居ないのに。謝罪は、本人の前でしないと意味がない。彼が受け止めてくれないと、成立しない。
……その名前を少しの間見つめて、またスクロールする。
……そして目にする。それ。
『高杉晋助』
……晋助。
今、何してるんだろ。その名前を、理由もなくタップする。メールの下書きを開いて、文字を打っていく。
『久しぶり』
『元気にしてる?』
『会いたいな』
……なんて。
「どの口が言ってんの」
その通りだ。こんなもの、送れるはずがない。送っていいはずがない。私は消去ボタンを連打して文字を消していく。
…けれど。
……ねぇ。
「……会いたいの、ごめんね、」
……涙が出てきた。視界が眩む。液晶が見えなくなる。ぼやけた光が、眩しい。
…勝手だけど、どうしようもないけど、やっぱり、
「…会いたいよ…」
…それが紛れもない、私の本心だった。
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ピピコ(プロフ) - 返信が遅れてしまいごめんなさい!!すずさん!ありがとうございます!高杉さんオチ現パロということで、難しいところもたくさんありましたがそう言って頂けるなら書いて良かったなと心から思えます!こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました!! (2018年4月11日 15時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - あああああ!!ほんとにキュン死しそうでした!!(〃ω〃) 素敵な作品と私を出会わせてくれて、ありがとうございます!! (2018年3月21日 4時) (レス) id: 243c6c39f4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 紫音さん» 紫音さん!ありがとうございます!!感動して頂けましたか…!?切なく甘く、を目標に頑張りました!!初めての高杉さんだったので、試行錯誤しながらでしたが、お楽しみ頂けていたなら嬉しいです!!最後まで読んでくださり、ありがとうございました!! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月猫さん» 月猫さん!いつもありがとうございます!叫びたくなりましたか…!初めての高杉さんのお話で、うまく書けているか不安しかないのですが、お楽しみ頂けたなら幸いです!また高杉さん書けたらいいなと思ってます!最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 完結おめでとうございます!とっても感動しました! (2017年11月24日 5時) (レス) id: b88bd76db6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月24日 16時