泣く権利 ページ16
*
…何を、しているんだろうか、私は。
会社帰り。電車に揺られながら、私は冷静になった頭でそう考えていた。夜の東京の街が、急速に流れていく。まるで星空のように、光が散りばめられていて、眩しいくらいだった。その光のひとつひとつに、私が知らない誰かの暮らしがあるのだ。ドラマや映画みたいに、その光達に感動して涙することはなくとも、その数があまりにも多くて、私はいつもそれに圧倒される。
…そんな景色を眺めながら、私は電車に揺られる。ガタゴトと、そんな音をたてて、電車は進んでいく。私が降りる駅までは、まだ何駅かある。吊革に捕まって、ぼーっと流れる景色を見送りながら、私は先程のことを思い出す。
…熱を帯びた視線。
…私に優しく触れた大きな手。
…触れあった熱い唇。
…交わった甘い吐息。
…もう一度、何やってんだろ私、と思いながら、溜め息をついた。そんな些細な音は、電車の音に塗りつぶされていく。きっと誰にも気づかれない。もし聞こえる環境だったとしても、誰も気に留めないだろう。世間は思った以上に、他人に干渉しない。そういうものだ。特に、東京みたいな、こういう土地では、特にそうだろう。
…それでも。
『…そのへんくらいからお前、ブラック飲んでみたり、上の空だったりしたからよ』
…彼は、見ていてくれていた。私のことを。
誰も、私のことなんて見ていないんだと思っていた。人は他人に干渉しない。自分は自分、他人は他人と見て、特に何も気にせず、関係ないと結論付ける。なのに、彼は、坂田くんは、私のことをずっと、見ていてくれた。そんな小さな変化すら、見つけてしまえるくらいに。それが私はとても、嬉しかった。ずっと、寂しさを抱えていたからかもしれない。彼と別れた、今でもずっと。
…だから。彼に求められて、私は拒否出来なかった。寧ろ受け入れてしまっていた。
…いや、そうじゃない。
私は、私は彼を、坂田くんを、重ねていただけ。
…晋助と、重ねていただけだ。
最悪だ。最低だ。私は。とんだ馬鹿野郎だ。今なら誰になんと罵られても、仕方がないと受け入れてしまえる。私は本当に、どうしようもない。ワガママで、不甲斐なくて、自分勝手で。
坂田くんの想いを踏みにじった上に、自分から別れを告げたのにも関わらず、私は未だに彼を求めていた。
…何がしたいんだ、私は。
泣きたくなる。けれど、私に泣く権利はきっとない。
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ピピコ(プロフ) - 返信が遅れてしまいごめんなさい！！すずさん！ありがとうございます！高杉さんオチ現パロということで、難しいところもたくさんありましたがそう言って頂けるなら書いて良かったなと心から思えます！こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました！！ (2018年4月11日 15時) (
レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - あああああ！！ほんとにキュン死しそうでした！！(〃ω〃) 素敵な作品と私を出会わせてくれて、ありがとうございます！！ (2018年3月21日 4時) (レス) id: 243c6c39f4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 紫音さん» 紫音さん！ありがとうございます！！感動して頂けましたか…！？切なく甘く、を目標に頑張りました！！初めての高杉さんだったので、試行錯誤しながらでしたが、お楽しみ頂けていたなら嬉しいです！！最後まで読んでくださり、ありがとうございました！！ (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月猫さん» 月猫さん！いつもありがとうございます！叫びたくなりましたか…！初めての高杉さんのお話で、うまく書けているか不安しかないのですが、お楽しみ頂けたなら幸いです！また高杉さん書けたらいいなと思ってます！最後まで読んでくださり、ありがとうございました！ (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 完結おめでとうございます！とっても感動しました！ (2017年11月24日 5時) (レス) id: b88bd76db6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ピピコ
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時：2017年8月24日 16時
