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「………お前だから、だよ」
「……え?」
……と、坂田くんはポツリとそう口にした。もしその言葉をオフィスで口にしていたなら、そんな声きっと聞こえなかっただろう。けれど、私と彼、二人しかいないこの場所で、聞こえないはずもなく。彼に視線を向ければ、その目が、私を見つめていた。真っ直ぐに、揺るぎなく。
……いつもの気だるそうな目とは違って、少し熱が籠っているような。
「…ぇ、と……坂田くん…?」
「………あのさ、」
……ソイツじゃなきゃダメなの?
と。坂田くんは言う。自分の手に持っているコーヒーカップを台に置いて、私と距離を縮めてくる。無意識に私は後退りする。が、すぐにそこには壁があって、背中にくっついてしまう。
逃げ場をなくした私は、ただ呆然と坂田くんの目を見つめ返していた。
「……ねぇ、マジそろそろ気づいてくんね?」
……目の前に迫った彼の目。絡まる視線はやっぱり熱くて、目が離せない。久しぶりに、胸が大きく高鳴っている。
「……何、に…」
力なく私は言う。彼が何を言いたいのかなんて。もう自分で分かっているはずなのに、そんなことを言って、分からないフリをして、彼に言わせる私は、何なのだろうか。
……多分私は、誰かに私を求められたいのだ。
……どうしようもなく、そう思っているのだ。
「……Aが好きだっつーこと」
……熱を纏った声で。
……囁くように彼は言うと、私との距離を0にした。久しぶりのぬくもりに、私は身を委ねてしまう。
「……ん、ッ…」
……コーヒーカップを落とさないようにするのに必死だった。
……あぁ、こんなとこでこんなことして、今この場所に誰か来たらどうするつもりなのかな坂田くん。
そう思ってみても、私は彼から与えられるぬくもりに、熱に酔いしれてしまう。何度も、深く交わされるそれに、ふわふわとしてしまう。
……私は、最低だ。
『……A』
……こんな時ですら、彼のこと。
…坂田くんのことを、晋助と重ねてしまうだなんて。
「……んッ……ん、ぅ…」
何度も何度も、角度を変えて、坂田くんは私を酔わせていく。空気を体内に取り入れたくて、唇が解放された隙に息を吸い込もうとした。けれど、それはまたすぐに塞がれてしまう。
……薄く開いた口から、ぬるりと侵入してしたそれは、私の口内を掻き乱す。
会社内。とても場違いな甘い吐息が、二人分。
…今は、今だけは、彼にこの身を委ねても、いいだろうか。
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ピピコ(プロフ) - 返信が遅れてしまいごめんなさい!!すずさん!ありがとうございます!高杉さんオチ現パロということで、難しいところもたくさんありましたがそう言って頂けるなら書いて良かったなと心から思えます!こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました!! (2018年4月11日 15時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - あああああ!!ほんとにキュン死しそうでした!!(〃ω〃) 素敵な作品と私を出会わせてくれて、ありがとうございます!! (2018年3月21日 4時) (レス) id: 243c6c39f4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 紫音さん» 紫音さん!ありがとうございます!!感動して頂けましたか…!?切なく甘く、を目標に頑張りました!!初めての高杉さんだったので、試行錯誤しながらでしたが、お楽しみ頂けていたなら嬉しいです!!最後まで読んでくださり、ありがとうございました!! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月猫さん» 月猫さん!いつもありがとうございます!叫びたくなりましたか…!初めての高杉さんのお話で、うまく書けているか不安しかないのですが、お楽しみ頂けたなら幸いです!また高杉さん書けたらいいなと思ってます!最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 完結おめでとうございます!とっても感動しました! (2017年11月24日 5時) (レス) id: b88bd76db6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月24日 16時