苦い ページ12
*
…あれからの日々は、呆気なく過ぎていった。彼が恋人ではなくなったということ以外は何も変わらない、平凡な毎日。平和で、平穏で、なんの問題もなく円滑に、日々は流れるように過ぎていく。心の何処かにある、ぽっかりとした穴を携えて。
……とても平和で平穏で、何かが足りない日々。
「……ふぅ…」
……そんな日々を、私は今日もぼんやりと過ごしている。片手に会社に置いてあるマグカップを持って、コーヒーメーカーの前に立っていた。仕事が一段落したので、ブラックのコーヒーでも飲んでみるか、と、なんとなく席を立った所だった。
トボトボ……と、カップに黒い液体が注がれていく。砂糖も何も入れないコーヒーには、なんだか浮かない私の顔がうつりこんでいた。両手にカップを持ってそれを見つめる。
……ひっどい顔だ。
「なーにしてんだよ、んなトコで」
……と、声をかけてきたのは同僚の男。気だるげな顔を今日も変わらず携え、これまた気だるげに右手をヒラヒラとさせて歩いてくる。いつも締まらない顔をしているソイツと、晋助とでは相当の差がある。
「……何よ、別にいいでしょ。坂田くんには関係ないわ」
「ひっでーな、同僚だろ関係なくねーだろーが」
……銀髪のクルクルヘアーは今日も健在。以前そのふわふわの髪を触らせてくれと頼んだことがあるが、嫌だと拒まれてしまったため、その夢は未だ叶っていない。
「うげっ……お前またブラックかよ……」
よくんなにげェもん飲めるな、と。坂田くんは顔をこれでもかと歪ませて言う。彼は極度の甘党。ブラックコーヒーとは縁がないのだろう。
「坂田くんが甘いの好きだからそう思うだけよ。だいたい、砂糖入れすぎなのよ貴方は」
糖尿になるよ、と。言ってるそばからコーヒーをカップに入れては砂糖をめちゃめちゃ入れている。もういい、勝手に糖尿にでも何にでもなっていればいいのだ。後でヒーヒー言えばいいのだ。
「疲れた時は糖分だろ。人生の基本だ」
「はいはい」
適当に促しては、コーヒーを口に含む。苦味が口の中に広がり、喉を通っていく。
「……ほら、渋い面して飲んでんじゃねーかよ」
「……そんなことないよ」
……苦い。苦すぎる。やっぱり。
「……見栄はってんだか知らねーけど、そんなん我慢してても意味ねぇし辛いだけだろ」
「……いいの」
ほっといてよね、と。顔を背けた。
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ピピコ(プロフ) - 返信が遅れてしまいごめんなさい!!すずさん!ありがとうございます!高杉さんオチ現パロということで、難しいところもたくさんありましたがそう言って頂けるなら書いて良かったなと心から思えます!こちらこそ、素敵なコメントをありがとうございました!! (2018年4月11日 15時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - あああああ!!ほんとにキュン死しそうでした!!(〃ω〃) 素敵な作品と私を出会わせてくれて、ありがとうございます!! (2018年3月21日 4時) (レス) id: 243c6c39f4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 紫音さん» 紫音さん!ありがとうございます!!感動して頂けましたか…!?切なく甘く、を目標に頑張りました!!初めての高杉さんだったので、試行錯誤しながらでしたが、お楽しみ頂けていたなら嬉しいです!!最後まで読んでくださり、ありがとうございました!! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 月猫さん» 月猫さん!いつもありがとうございます!叫びたくなりましたか…!初めての高杉さんのお話で、うまく書けているか不安しかないのですが、お楽しみ頂けたなら幸いです!また高杉さん書けたらいいなと思ってます!最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2017年11月24日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
紫音(プロフ) - 完結おめでとうございます!とっても感動しました! (2017年11月24日 5時) (レス) id: b88bd76db6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2017年8月24日 16時