三月三日 織田作之助との邂逅（一方的に）２ ページ4
「嗚呼、素晴らしい経歴だね。凄腕の暗殺者、なんて、今時死語だと思ってたよ。」
クツクツと彼女が嗤う。
甘ったるい砂糖を溶かしたような声音――一般人なら何とも思わないであろう声音だが――が、私にじんわりと食い込んでくるようだった。。
だが、二度目だ、流石にもう大丈夫。
「あの、貴女は誰ですか？」
問い掛ければ、ヒラヒラと手を振られる。
「敬語なんて善いよ。むず痒いだけだ。私は弥生。首領直轄の遊撃隊隊長の椅子に座らせて貰っている。」
そう云って彼女――弥生は笑った。
今度は普通の笑顔だ。
首領直轄の遊撃隊隊長――要するに、準幹部級の力は持っていると云う訳だ。
何故、其んな人が此の場にいるのか、そして私に話し掛けてきたのか、皆目見当がつかない。
弥生は、私の考えている事が判っているのかいないのか、只ニコニコと笑っていた。
暫く、何も誰も喋らない。
此れは私が問い掛けろと云う雰囲気なのかと気づき、私は再び問い掛けた。
「一体、如何して此処へ？」
「君を見に来た。」
呆気らかんとした声で弥生は答えた。
「君は太宰の友達だろう？私も一応彼と友達関係を結んでいてね。太宰は私の恩人でもある。だから、彼が付き合っても大丈夫な人間か判断しに来たのだよ。まァ、あの子の方がよっぽど上手に人を見極めるけれど、一応、ね。だが、君を見て安心した。」
ガタリと弥生が席を立つ。
何時の間にか、グラスの中の酒は消えていた。
私の酒は、一滴も飲まれず溶けた氷によって薄められて行ってると云うのに。
何時の間に飲んだのだろうか。
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作者名：永魔堂 | 作成日時：2018年11月11日 19時
