三月七日 坂口安吾との邂逅３ ページ21
じっとりと睨みつければ、きゃぁ怖いと楽しそうに声を上げる。
安吾は溜息を吐き、再び筆を握りながら口を開いた。
「そうですね。貴方の事は善く知っています。容姿も、性格も、過去も、年齢も、身長も、体重も。」
「其処まで云われると、何だか気持ち悪い。」
呆気らかんと弥生は云い放つ。
安吾は其れを無視し、紙を捲り、筆を走らせながら続ける。
「ですが、此の情報はあくまでも書類を作る為に必要だったもの。僕の趣味で集めたのではありません。」
きっぱりと云ってのけた安吾に、弥生は来た目的を忘れそうになりながら、心底楽し気に、そして、思わず目を伏せて仕舞いそうになる程、妖艶に笑った。
安吾は微かに片眉を上げる。
何が可笑しいと云うのだろうか。
未だケラケラと笑いながら弥生は云った。
「別に、君が其んな事をするとは思ってないよ。私に君を魅了する様な魅力は無いしね。性格とか、其の他諸々を知られているのもあるし。」
「では、今回何の為に、」
如何して此んな場所に来たのですか、とは云えなかった。
其の前に、金属音が鳴ったからだ。
カチャリと揺れる音が、此の人はマフィアなのだ、常に武器を携帯している人なのだと確認させる。
弥生は、カチャリと銃を鳴らしながら、安吾に頭を下げていた。
「お願いします！私の年齢バラさないで下さい！」
「……は？」
弥生の大きな声が、狭い個室にぐわんぐわんと鳴り響いていた。
安吾は一拍遅れて反応する。
首領直轄の遊撃隊隊長。
其の実力は、あと一歩で幹部に届く、準幹部候補よりも上らしい。
其んな人が、高が情報員に頭を下げて善いのか。
困惑しながらも、安吾は頭を上げて欲しくて、声を掛けた。
「否、其の……。」
掛けようと、した。
だが、思う様な言葉が見つからない。
第一、頭を下げる事はあっても此の様な形で頭を下げられることは少ない安吾に、此の状況に応じろと云う方が難しい。
「あの、顔を上げて……。」
結局出た言葉は、思っている事其の儘の言葉であった。
他に、何の言葉があったと云うのだろうか。
安吾が云っても、弥生は顔を上げない。
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作者名：永魔堂 | 作成日時：2018年11月11日 19時
