□36. ページ37
「──読手には私が保管していたカセットを使うたんや。この意味が分かるかね?」
ちらちらともみじが空を舞う中、阿知波さんの頬には涙が伝う。
…圧倒的に皐月さんが有利な状況での勝負だった。
なのに…、彼女は敗れてしまった。
「…名頃の実力は私たちの予想をはるかに超えとった。皐月の感じた恐怖はどれほどやったろう。翌日の試合で屈辱的な大敗をするのは確実やった」
ずる、と階段に座り込んで下を向く彼は息を吐き出すように喋る。
「その恐怖が、彼女を犯行に走らせてしもうた…」
彼女はそれ以来、人としての感情を失って皐月会からの運営も遠ざかり…その2年後に病期で亡くなってしまった。
───そう、阿知波さんは言った。
「これが真実だ…、なぁ、分かってくれ」
そう告げると共に、阿知波さんが着物の袖から出したのは起爆スイッチと思われるもの。
『だ、だめだよ!!』
「やめるんや!!」
私と服部くんの言葉には耳を傾けずに「みんな名頃のせいだ」と今度は立ち上がる。
「あの男が皐月を辱めなければこんなことには…」
「───辱めたくなかったから!!前の日に名頃先生は行ったんやと思いますけど…!」
阿知波さんの言葉を遮り、1歩前に出たのは紅葉さん。真っ直ぐな瞳で彼を見つめながらも声を上げる。
「以前、名頃先生に聞いたことがあるんです。なんでそんなに皐月会を目の敵にしてはるんですかって」
まだ紅葉さんが今より幼い頃の話。
名頃さんは、少しだけ切なげに、でも愛おしそうに語ったらしい。
そうでもしないと彼女…、皐月さんと戦えないからって。ただ勝って、“すごいなぁ”って褒められたいだけだって。──初恋の相手に。
…思わずじくりと胸の奥で何かが熱くなる。
「は、初恋…?」
「そうです、名頃先生は皐月さんに憧れてかるた始めはったそうですから」
唖然とする阿知波さんに、紅葉さんは頷くようにして話を続けた。
「…けど、目の病であと1年しかかるたできひんってお医者様に言われて…、そやからあんな強引なかるたにならはったんやと思います」
そこまで言った彼女は、寂しげに目を伏せて「…先生には、時間がなかったから」と付け足した。
1063人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
↑ここなっつ↓(プロフ) - お気に入り1000人おめでとうございます!!!ほんっとにいつ読んでも面白くて、hit数の100回分ぐらいは私です笑ピュアっピュアな関係が最高です!ませていただきます!! (2021年1月26日 0時) (レス) id: 71253ca668 (このIDを非表示/違反報告)
hihi - 全部読ませていただきました!!とっても面白いかったです! (2020年4月14日 18時) (レス) id: ce767b5d1b (このIDを非表示/違反報告)
さわおり(プロフ) - すごくおもしろかったです!!新しい映画シリーズ楽しみです!!更新頑張ってください! (2020年4月10日 23時) (レス) id: 5567e38aaf (このIDを非表示/違反報告)
萌奈 - とっても面白かったです!夢主ちゃんとコナンくんの恋がどのように、進展していくのか楽しみです! (2020年4月10日 10時) (レス) id: 08309c157f (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - ぜんぶ最高でした!!よければゼロの執行人も見たいです! (2020年4月2日 10時) (レス) id: de93f0d8c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ