第六十ニ幕 ページ16
「だからね、ゆらちゃん。
全ての妖怪を悪だと思わないで…人間に味方をしてくれる妖怪だっていることを忘れないでほしい。
ゆらちゃんがこれからもっと強くなって…いろんな景色を見たとき、いつか、きっと分かるよ。」
彼女の優しくて切なそうな声。
それでも強い祈りを込めたような意思の通った声。
その言葉を聞いてゆらが感じたものは…
________畏れ。
自分の命を顧みないところ、妖怪を友達だと呼ぶことが理解できない。
存在が危うく、儚げで、怖いもの知らずの女の子。
怒り、悲哀、不信、嫌悪、驚愕、恐怖。
ゆらに様々な感情が駆け巡る。
この複雑な思いを一括りに表すなら、それが妥当だった。
目は口ほどに物を言う。
その感情をAは読み取れたのか、悲しげに苦笑をもらす。
「ゆらちゃん、カナ。気をつけて帰ってね。」
そのまま彼女と妖怪の主は同じ方向に進み、朝霧に溶けていった。
「分からん…あんたの姉ちゃんは何なん。」
後ろに立つカナは少し考えて、胸に両手を当てた。
「…たまに、ああいう無茶をすることがあるの。
お姉ちゃんは明るくて人懐っこいけど、どこか壁を作られているような気がする。
私も不安に思うことがある…でもね。」
カナは少し笑顔になって、大好きな彼女を思い浮かべる。
「お姉ちゃんは、とても温かくて…愛情深い人だよ。」
ゆらがこれ以上彼女について話すことはなかった。
・・・
朝日の光が障子越しに差し込み、空が白んできたころ。
薄暗い自室にAはいた。
ソラの身体に寄りかかりながら手当てしてもらった左腕を見る。
顔には湿布や絆創膏などが貼られていた。
「氷麗、カンカンだったね。」
「儂も怒っている。…傷は見られたのか。」
「見られた。旧鼠には悪いけど、全部彼に攻撃されたって氷麗も勘違いしてるからそのままにした。」
数秒間の沈黙。
先に口火を切ったのはソラだった。
「また人に嫌われたな。」
「決断早すぎ。
しかし参ったね…印象悪くしちゃったかな。
私も人間なのに、どうしてこうも馴染めないかな…」
「こちら側に干渉しすぎだ。
お前は妖怪の世界としても、人間の世界としてもその生き方は普通じゃない。
…その点ではあやつは器用だがな。
環境に恵まれているからだろう。」
あやつとは、リクオを指す。
ソラはこちらを一度見て、瞼を伏せた。
(どうして、お前ばかりが救われぬ。
何故、あの餓鬼の側にいようとする。)
____幸せそうな、あいつが嫌いだ。
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桃子(プロフ) - めっちゃ面白くて好きです!!忙しいと思いますが更新頑張ってください! (2021年5月15日 22時) (レス) id: f758fcdb57 (このIDを非表示/違反報告)
氷麗 - とっても面白いです!色々忙がしいと思いますが、更新頑張って下さい!p(^-^)q (2020年8月6日 10時) (レス) id: 0b4aa008b9 (このIDを非表示/違反報告)
レモンティー(プロフ) - みいらさん» コメントありがとうございます!とても励みになります( ;∀;)ノロマ更新ですが気長にお待ちいただければ幸いです。今日の夜に更新しますね! (2020年6月23日 12時) (レス) id: a8c312a3ba (このIDを非表示/違反報告)
みいら(プロフ) - とっっても面白いです!更新頑張って下さい!! (2020年6月23日 10時) (レス) id: 8b1d0909e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月28日 19時