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第七幕 ページ9

だが、それも束の間。
奥の方から勢いよく走る足音が聞こえてくる。
騒ぎを聞きつけた何匹かの妖怪がひょっこりと顔を出していた。

外に出てきたのは寄合いに参加していたはずの、リクオだった。
氷麗はリクオを心配し、髪を梳かすのを中断する。

「若!!風邪ひきますよ。」

「いいからほっといてよ!!」

気を乱したリクオを見て、Aは思わず名前を呼ぶ。

リクオは我に返り、彼女と目を合わせた。
だが、すぐにそっぽを向く。

「姉ちゃん…今日はもう帰って…」

来いと誘ったのはそっちなのに…と厄介払いされたことに腹を立てるも落ち込んだリクオを前に責める気など起きなかった。

ただ、「うん」と頷くことしかできない。
氷麗や周りにいた妖怪に頭を下げて出口へと向かう。
「リクオ。また明日ね」

手を振りながら、門を潜り抜ける。
リクオはAが見えなくなる最後まで見送っていた。

・・・


一人、帰り道をとぼとぼ歩く。
リクオとは微妙な形で別れ、内心気持ちが沈んでいた。
それに、あの事も言いそびれてしまった。

…暗いことばかり考えたって仕方ない。
とにかく早く家に帰ってご飯を作らねばと辺りを見回し、誰もいないことを確認する。

「ソラ!!」

そう叫ぶと、今度は指笛を鳴らす。

(たちま)ち、天から一匹の獣が駆けつけた。
焦げ茶の毛色。虎視眈々とした鋭い眼。
野性を感じさせる獣臭。
だがその瞳はどこまでも澄んだ美しい空色であった。
その獣の風貌は、犬にも狼にも似ている。

「どうしたんだ。帰りが早いじゃないか。
あの子供と喧嘩でもしたか?」

これは『送り犬』という妖怪である。
夜中の山道で自分達の縄張りに入った人間を監視し、最後までついてくる妖怪。

途中で転んでしまうと、群れで襲いかかり喰い殺すという恐ろしい反面、母子を守るという優しい面もある。
要は怪しまれることさえしなければ人間にとって大変心強い味方となるのだ。

Aはこの送り犬に『ソラ』と名付け、小さい頃から守ってもらっていた。
ソラもまた、彼女を主として忠誠を誓っている。
Aの優秀なパートナーだ。

「さあね…
あんなリクオの姿は珍しいから。」

Aは憂いた顔でソラの背中に跨る。
しっかり乗ったことを確認して、ソラは大きく飛躍した。一人と一匹だけの我が家へと帰路を辿る。


「明日になっていれば元気になっているだろう。
子供は気紛れだからな。」

「それ、私のことでしょ!」

「間違っとらんだろ。」

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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月6日 16時

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