第六幕 ページ8
涼しい風が居間を吹き抜ける。
微かに揺れる枝垂れ桜と小池にたつ波紋が風情を感じさせる。
その光景を眺めながら、Aは鼻唄を唄っている。
後ろには氷麗が丁寧に彼女の髪を梳かしていた。
ご機嫌なAとは裏腹に、髪の一本一本を確かめながら「あら、ここにも枝毛が…」と念入りにチェックしている。
このような細かい作業をしているうちに、ふと疑問に思っていた事を本人にぶつけてみた。
「ねぇ、どうしてなの?」
「何が?」
「どうして、女の子らしくない格好をしているの?
母親には何も言われないの?」
髪を梳かしているので、後ろ向きのAの表情を読み取ることはできない。
氷麗はずっと考えていた。
この奴良組本家にふらりと現れた時から変な子だった。
少し古びた質素な服装。
寝癖のついた頭。
やんちゃな子供ゆえの膝の怪我。
決して清潔感のある身なりではなかった。
しかも、最初から妖怪の存在を知っていた。
あまりのガサツな見た目に、男だと勘違いした妖怪もいるほど。
以前、リクオからAは母子家庭だと聞いたことがある。
きっと、裕福な家庭ではないのだろう。
だからこそ、おしゃれをすることもできない。
(それに…)
身体つきも普通の女の子より痩せているように思える。
ちゃんとご飯は食べさせてもらえているのだろうか。
氷麗は親の愛情を充分に受け入れてもらえていないのではと密かに心配していた。
そして、だんまりしていたAが元気な声で喋りだす。
「これは私が好きでやっているの。
お母さんは朝から晩までお仕事で家にいないことが多いし…私のために頑張ってお金を稼いでくれてるの」
Aは満面の笑みを氷麗に向ける。
「だから氷麗が悲しい顔をすることは何もないよ!
私は氷麗の笑った顔が好き!」
ただの杞憂であったのだろうか。
この子は貧乏なりにも母と上手くいっている。
そう思わせるような安心感がその笑顔にはあった。
(悪餓鬼なんだと屋敷のみんなは憎まれ口を叩くけど…)
なんだかんだ、この子に癒されている。
見ているだけで元気がもらえる。
自分もそのうちの一人なのだと自覚し、クスりと笑った。
「寂しくなったらここにおいで。
奴良組はあなたを歓迎するわ。
…リクオ様もそう望んでいるもの。」
「うん!」
しばらくは女子トークで会話を楽しむ。
二人の間に和やかな雰囲気が包まれた。
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作者名:レモンティー | 作成日時:2020年5月6日 16時