『___________________』【ぬら孫】 (ページ43)

今日:11 hit、昨日:6 hit、合計:56,495 hit

第四十幕　リクオ、夢を見るページ43

最早飲む気など起きなかった。
猛毒と化した悪酒(水)は口にすれば死にいたる。

ただでさえ弱体的な体質だというのに、寿命を縮めるわけにはいかない。
丁重に断ろうとAに向き直る。

「ねえ…何故飲もうとしないの？」

そこには、怒りを隠し切れていない黒い笑みが浮かんでいた。
鴆は固まり、彼女がここまで怒る理由をわからずにいた。

実際のところ、彼女自身も鴆に対して怒っているわけではない。
それどころか内心楽しんでいたのだ。

これは演技。相手の態度に合わせて彼女が勝手に作りあげたシナリオに従っているだけなのだ。

____おままごとは既に始まっている…。

「知っていたわ…あなたが他の女の人と逢引していることを…。」

「は？」

「全部分かってんだからね！
私と結婚をすることも本当はお金目的なんでしょ！？だからお酒(水)を飲むことも躊躇っているのね！」

「いや、あの…え、羽根…」

「いいわ…あなたがその気なら、こんな結婚式…私がぶち壊してやる！！」

「いや壊しちゃダメだろ！！」

台を思いっきり、ひっくり返すA。
身の危険を感じた鴆は、一目散にその場を離れた。
だが、彼女はどこまでもついてきては呪いの言葉を唱え続けた。

「お前のこともシバいてやる！！」

「誰か助けてくれっ！！」

妖怪の端くれである鴆さえも畏れを抱かせる人間…いや、あれは人間と呼んではいけない。
鴆はそう感じていた。
理不尽に巻き込まれた鴆は誓った。

もう二度とこいつとは遊ばない。

以降、鴆は時より悪夢を見るようになったそうだ。
彼女に永遠と追いかけられる夢を…。

・・・

「いや～今考えたら可哀想なことしちゃったかな？あれ以来、音信不通になってたんだよね。」

可哀想などという単語が出てきても、彼女はさも懐かしい思い出を語るかのようにしみじみとした気持ちになっていた。

彼がどれだけ恐怖の対象として見ていたのかに気づいていないことが尚恐ろしい。

烏天狗とリクオは互いに視線を交わす。
その目には様々な感情が揺らめいていた。

とにかく、これで鴆が彼女を苦手としている理由は解明された。

「ハッ…やっぱり姉ちゃんはそうでなくちゃな。」

「え、どゆこと？」

「鴆様…お気の毒に…。」

・・・

リクオは夢を見ていた。

とっくに春を過ぎたというのに、家の枝垂れ桜が満開に咲いている。

リクオは太い幹に座っていた不思議な男を見た。

「誰？」

「そこにいるのは…誰？」