『___________________』【ぬら孫】 (ページ33)

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第三十一幕ページ33

屋敷は静寂に包まれ、今頃は皆寝ているだろうか。

リクオは月を見上げ、縁側に座っている。

夜風が火照る頬を撫で、季節が過ぎた枝垂れ桜の葉がカサカサと鳴った。

「眠れないの？」

姿を現したのは姉ちゃんだった。

姉ちゃんは白い浴衣の寝巻きを着ており、髪の毛を一本に結んでいる。
毛先が少し濡れて、湯が立っているため風呂に入ったばかりのようだ。

小さい頃の姉ちゃんはいつも同じような服を着ていて洒落込む要素も全くなかったため、こういうのは新鮮だった。
心なしか自分の脈が早くなっている気がする。

「姉ちゃん…風呂上がりで外に出たら風邪ひくよ。」

「ハハ、良いの良いの！
身体が熱いくてしょうがないから涼みにきたの。」

「いや、良くないってば。」

縁側から立ち、自分の羽織りを彼女の背中に掛ける。
何故か姉ちゃんは心底嬉しそうにしていた。

「リクオは変わったんだね。
あの頃はもっとやんちゃで子供らしかったのに、今じゃ身体も大きくなって大人びていて…。
…でも、もう少し可愛げがあっても良いと思うんだけどなあ」

「姉ちゃんが変わらなさすぎなの。」

そう言って、二人でクスクス笑い合う。
もう一度縁側に座り、会話を続けた。

「姉ちゃん、ずっと謝りたかったんだ。
あの時は絶交なんて言ってごめんね…。」

今思い出しても酷い言い方だと思う。
よくも姉に向かって絶交だなんて悍しい言葉が出たものだ。

「そのことならもう四年前に謝ってもらったよ。
確か、その時も羽織りを掛けてくれたんだよね。」

それを聞いてボクは疑問を抱く。

「ボク、そんなことしたっけ？」

姉ちゃんも同じような反応をして、二人の間に食い違いが起きる。
彼女が話していることは恐らく記憶が無い時に起きた出来事だろうと思い、真実を打ち明けた。

(覚えていないのか…。)
「そうなんだね…返すの遅くなっちゃった。
もうサイズがあわないだろうけど今から取っ「いい。」」

部屋に戻ろうとする姉ちゃんの腕を掴む。

「羽織りは姉ちゃんにあげる。
だから、い、今は…。」

ここにいて。

側にいてほしい。

その言葉が恥ずかしくて、その先は喉につっかえて出てこなかった。

「ふふ、なんだ可愛いところあるじゃん。
リクオはシスコンの素質があるね。」

「変な解釈しないでよ！」

再び座る姉ちゃんの肩にコツンと寄りかかる。
姉ちゃんの温かい体温とシャンプーの良い香り。
それがとても心地よかった。

____もうどこにも行かないでくれ…。