『___________________』【ぬら孫】 (ページ32)

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第三十幕ページ32

本気で狙うソラに〝畏れ〟を感じた納豆小僧はヘコヘコと謝り、発言を撤回した。

そこで、助け舟を出したのはAだった。

「まあソラも落ち着いてよ、折角の食事が喧嘩で不味くなるのは嫌だよ。
こう見えても、ソラはかなりの武闘派だから番犬に向いてますよ。
どうぞコキ使ってやってください。」

「フォローになっとらんし、番犬とはなんだ！！」

きっと、この送り犬を残材に扱える人物はAしかいない。
離れた位置から苦笑して食事をするリクオ。

「そういえば、姉ちゃんの制服うちの学校のだよね？
タイミングが見つからなくて言い出せなかったけど…」

「そうだよ！
明日からリクオと同じ中学校に通えるよー。
いやあカナにも会えるってことだよね？
楽しみだなー！」

ウキウキとした様子の彼女に顔を綻ばせるリクオ。

烏天狗は思い出したような顔をすると、Aの目の前まで飛び留まった。

突然の彼の行動で注目の的となる。

「拙者、Aにお願いがあるのです。
今一度リクオ様が三代目を継ぐように説得をしていただきたいのでございます。」

「烏天狗？！」

皆が揃うこの時間、そしてAがいる。
この時を見計らい烏天狗はリクオが三代目の就任を断りづらい状況を作り上げたのだ。

少々やり方は汚いが、烏天狗も本気なのだ。
Aは烏天狗からリクオに視線を移す。

目が合った瞬間にリクオは動揺を見せた。

「…リクオは三代目になりたいと思っているの？
君の正直な気持ちを聞きたい。」

そこに威圧感はないが、とても冷静な声でリクオの意思を問う。
リクオの答えは…

「人間が妖怪の総大将になれるはずがない。
それに、あの日からボクは人間として立派に生きると決めたんだ。

…だからごめん。
たとえ姉ちゃんのお願いでも「そっか」…え」

「わかったよ。」

と、優しい表情を浮かべた。
烏天狗は目をパチクリさせ「それだけ…？」とこれ以上何も言わずに味噌汁を啜るAに気を取られる。

「だって妖怪の総大将なんて、なれ！なれ！って言われても務まるものじゃないでしょ？
特に嫌がる人に強制したって良いことはなーんもないんだから。」

彼女を持ってしても駄目か。
最後の頼みの綱を切られ、烏天狗はとほほと床に座り込む。

「それに…四年前の喧嘩もそれと無関係ではないんだよね。
さすがの私もリクオに嫌われるのは弱る。」

「姉ちゃん…。」

自分の考えを尊重してくれた彼女に安心する反面、あの時の後悔が蘇った。