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第29話 ページ33

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道行く珍道中も落ち着きを取り戻すそんな初夏の陽気。
無理やりすぎだろって?そんなことは知ったこっちゃねぇわ。
心地よい風が吹く中、すよすよと寝息をたてる者が一人。夢現。

瞼の裏に映る憧憬。
思い出される幼き日の思い出。
懐かしい温もりを感じたせいだろうか。蘇る。



“お前、阿呆か。今のは俺の一本に決まってる”

“馬鹿も休み休み言え。このくそチビ野郎が”




まぁた、銀時と高杉がやってるよ。




道場に響く笑い声。
いがみ合う声の中に確かに幸せがあったのだろう。
馬鹿みたいな日常はいつだって愉快でどうしようもない。

本来ならば仲裁に入る役回りを担うのだろうが、少女にそのつもりはないらしい。
くだらないやり取りを他所に木陰で昼寝を決め込んでいれば隣に感じる気配に薄目を開けた。



「貴方は良いのですか。輪の中に入らなくて」

「いいよ別に。あんなくそだるい輪とか。ていうか、野暮ってやつ」

「そうでしょうか。いつも羨ましげに見ているではないですか」

「べ、別に。羨ましくなんてない」


必死な否定は肯定の裏返しにしか聞こえず、微笑ましげに見据える“先生”を前に視線を逸らす。
口を尖らす少女を見据える瞳は親子のそれと表現すべきか。

訪れるはずのない日々は有無を言わさず覚醒を促す。



「起きたか」

「私、何か言ってた?」

「別になにも?」

「嘘つき」


重ねた時はいざ知らず、たった一言からでも意を汲み取る様は便利か不便か。
こんな陽気の良い日には嫌でも過ぎる。
大好きだった、失いたくなかった。
叶うのならずっと一緒にいたかった。


「先生ってさ、本当に女心が分からなかったと思わない?」

「お前まだ根に持ってんのかよ」

「だって、装束が目立つからってあの人が持ってきたのなんだったか覚えてる?」

「男物の着物だろ?俺たちが死ぬほど笑って泣かしたよな」

「泣いてないし」



それ以上発しない銀時になんとも形容しがたい気持ちが押し寄せる。
押し殺すように握りしめた手元は裾に皺を作り、忘れようとする記憶はいつまでも色褪せない。


ごめん。
地に転がる師の(こうべ)を前に口ずさんだあの横顔と共に。



「ねえ、銀時。ひとりじゃなくてよかったね」

「寝ぼけてんのか?」


もう少し寝とけと触れる手が温かい。
これからは共に守れるように。願い、絃は瞳を閉じた。

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作者名:湊/松雪 x他1人 | 作者ホームページ:なし。  
作成日時:2021年1月22日 10時

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