第26話 ページ30
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「ねえ、なにいってるか聞こえないんだけど」
「だーかーらー、さっきから言ってんだろうが!!」
「ちょっ、なに近づいてきてんの?!馬鹿じゃないの、それ以上近づいたら殺すから」
「ちょっと意味がわからないんですけど。頭わいてるんじゃないの、この人」
距離を保ち叫ぶ男女。
このご時世、某ウイルスが猛威をふるっている今、声を張り上げればそりゃあ注目も集めるというもの。2メートルほどの距離を保ち、天パが距離をつめればゴスロリが距離をとるといったかくも奇妙な行動をとる二人、実は先日付き合いだした関係性。
「そもそもこっちの方が不自然だろうが。距離感バグってんじゃねぇの」
「バグってんのはアンタの頭でしょ。勘違いされたらどうするわけ?!」
「むしろ今、違う方向に勘違いされそうなんですけど?」
思いのほか苦戦する初回デートは混戦の予感。
難攻不落の城のごとき彼女を目にすれば、どうしたものかと頭をかく。
羞恥心からくる行為であることは目に見えて理解できるわけで、柄にもなくかわいいなだなんていう感情もなくはないが、これでは埒があかない。
周囲のざわめきも気になりだすそんな時分。
そろそろこちらが職質されてしまうのではないかという危機感に襲われつつ、やっとのことでとった男の行為はといえば。
「だーもう面倒くせぇ。なんもしねぇし、お前がいいって言うまでこの距離も保ってやるからとりあえずその警戒態勢を解いてもらっていいですかね」
「本当にそれ以上近づかないのね」
「俺は害虫かなにかか?!ちかづかねぇよ!!」
「似たようなもんでしょ。まともに家賃も払ってないんだから」
「こいつ…人が下出にでてれば調子乗りやがって…。んで、どこ行きたいんだっけ」
「海」
「おい、この前、山って言ってませんでした?おねーさん」
「海に行きたくなったの」
「………なら、一度戻って原チャとりにいくぞ」
なにを考えているのかまるでわからない…というのも今更ではあるが、今日はなお一層なにを考えているのかわからない。そんな今に四苦八苦するそんな時分。
二人絶妙な距離感で並び歩き?、漸く万事屋へ戻ると振り出しに戻ったことに気づく。
「ところでこれ二人乗りするんだよな?それは構わないっつーことでいいんですかね」
「これは物理的に仕方ないからいい」
前途多難とはきっと今日のようなことを言うのだろう。
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