第4話 ページ8
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一食に礼を尽くす。
それはかつて師より習い、従い続けてきた習慣のようなもので。
こうしてストーカーと思敷き、おまわりを成敗したわけだが。
どうもこのゴリラ、1度や2度というわけではないことはこの手慣れた雰囲気をみればよく理解できる。
歌舞伎町を留守にしていた間に随分とこの街はまた自由な街になったようだ。
江戸の治安に関心があるわけでもなければ、愛着があるわけでもない。
元を辿れば、国のために戦ったわけではなかった。
"攘夷"といっても、それはたった1つの願いを叶えるためだけのお飾りの言葉で。
"貴方"と過ごすこの
鬼にだって、忍にだって、なんにだって。
色を変え、姿を変え、本性を偽り、欺いて生きることができた。
「まあ欺いてるつもりもなかったけど。元から真実なんてなに1つ話してなかったし」
「ええと、あの、絃ちゃん…?」
「あ、着信。ちょっと待ってね、近藤さん」
「痛い痛い痛い、踏んでる踏んでるからね?!絃ちゃん、おーい。お妙さん!新八くん!助けてくれ、一生のお願いだ!」
ごりごりめきめきと骨が軋む音が響く。
そんなことも諸共せず、当人はといえば"今晩の予約"を確認。
巧みな仕草で画面を捌くと、予約客の名簿に目を通し、慣れた手つきでタップしていく。
「近藤さん、今何時?」
「近藤さん、もう呼吸してないです…」
「おや、それは良かった。これで妙ちゃんも暫くは平穏な心地で過ごせるわけだ」
そう涼しく笑ってみせるゴスロリ女は肩口に刺さっていた真剣を引っこ抜くと何事もなかったかのように自身の傘へとしまう。
「ええ、助かったわ。本当に」
「卵焼きの御礼。ついでだから、外に捨てておくね…?」
こてんと首を傾げてみせたゴスロリ女は、軽く自身より大きい彼を抱き上げれるのだから動揺せずにはいられない。全くもってこの女性は何者なのだろうか。
少なくとも普通じゃないのは確かだ。
そんな彼女は"お邪魔しました"と笑みを浮かべてみせれば、夕陽に染まる空へと消えていくのだった。
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