二十六話 五年 ページ27
「私がこの五年間、子供をしていたと思っているのか?」
彼女が放った言葉は、自分たちが戦いながらも意識を向けていた六年生にも突き刺さる。
言の葉でさえ、鋭利な苦無の様だ。
足に刺さっている苦無をそのままにし、動きが鈍り、遅くなった男の手から短刀を弾き飛ばす。
腕にもう一本刺したのだ。
「うああああ!」
耐え難い激痛に悲鳴を漏らすが遅い。
余裕そうに竹筒を取り出して、口元を切り付け無理矢理口を開かせた。
「お前、毒が効くんだな。自らの強さに溺れているが、タソガレドキの上忍に近づかなかったのは恐れか?」
「ち、違う…!」
話したら血がダラダラと垂れる。竹筒の中身を突っ込み、先程の悲鳴とは比にならない叫びが学園中に響いた。
「この五年間で作った一番強い毒だ。喉が焼けるか? 最高だろう?」
血だらけになり、瀕死の男を見ながらやはり本心で笑っている。ここまで生を感じさせる表情は今まで作れなかった。
トドメを刺さずに痛みだけを感じさせ、追加の毒を腕の傷にへとかける。
男は地面で野田内回り、顔にある一本線の傷がじわりじわりと馴染んで、恐怖と焦りで汗を大量にかき、まな板の上にいる魚の様な有様でAから見下ろされていた。
「つまらんな。村では若い男達が任務で居なかったから崩壊した…。女子供ばかり狙って、実にくだらない」
若い男達は帰ってくる事はなく、皆全員任務に失敗した。なんの任務だったのかは定かではないが、拾われてからはタソガレドキに居た。
仰向けで息を荒げる彼を、汚い虫を見る様な目で蔑む。横になって体制を整えようとした瞬間、腹に蹴りを入れた。
三間程蹴り飛ばされ、口からは血以外の吐瀉物を吐き出した。
「今度は子供がいる学園を狙うか。随分と油断しているな」
ゆっくりと歩いて近づいては、追撃でやってきた者が隙を突こうと走ってくる。
後ろ向きのまま着物から取り出した苦無を投げ、四本の細い苦無は腹と心臓を抉った。
「邪魔するなと言っている…。
それで、どうだ? 許しを乞うか?」
男は足で踏みつけても息をしなかった。
「なんだ、つまらん。もう
白目を剥き、口からは泡が吹き、身体中を蝕んだ毒が周り、完全に死んでいる。
赤い目を光らせていた威勢もようやく落ち着き、月明かりが返り血を反射させる。
辺りを照らしている月光を見上げ、片目の彼女は口角を上げた。
「…後は雑魚を処分するだけだ」
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あまね(プロフ) - すきー! (12月10日 11時) (レス) @page34 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
ルシア(プロフ) - 久しぶりの更新お疲れ様様です!! (9月19日 21時) (レス) @page32 id: 75dd258af5 (このIDを非表示/違反報告)
みょーが - 主人公が毒にだけ味覚が働いたり、興奮で身体能力が上がったりするところ、とてもしっかり作り込まれているのを感じます!銀鬼さんの小説は場面展開がわかりやすくて物語の世界に没頭できます。これからも更新楽しみにしておりますね。 (2023年4月10日 22時) (レス) @page25 id: c021c07d07 (このIDを非表示/違反報告)
おろししょうが - 刺殺と視察掛けてるの天才 (2023年4月10日 19時) (レス) id: 1e91c7e46b (このIDを非表示/違反報告)
らぱ(新)(プロフ) - 作品、読ませていただきました。時間の流れ方だとか誰がどんな動きをしているのかだとか、それぞれが繊細に伝わってきてしっかり理解することが出来て、本当に凄いと思います!キャラをおさらいしてまた来ます!続編楽しみにしています! (2022年1月5日 20時) (レス) @page14 id: c719b83a52 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:銀鬼 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ginki/
作成日時:2020年9月21日 15時