煩悩四 ページ5
要するに、俺はアイツに甘えていたのだと思う。
初めて遅れてしまって謝った時アイツは、
ーー仕事なんだから仕方ねぇだろ?
なんて許してくれたから。ああコイツは、俺が真選組に命を預けているのを許してくれているんだって、思ったから。
ただそれだけで、コイツはなんでも許してくれるんだって、酷い勘違いして。好きの一言も言えないのに、甘やかしてもらってばかりいて。ただでさえ女みたいに柔らかい体も、自分達の子も与えてやる事は出来ないのに。そんな二人を繋げる唯一の“約束”でさえ、俺は守る事が出来なかった。
いくらなんでも我慢させ過ぎだろう。恋人失格も甚だしい。
否。
最初から、恋人なんかじゃ無かったのか。
告白したのは俺からだ。聖母並みに根は凄い優しいアイツのことだから、同性に恋なんかしてしまった俺に同情して告白を承諾したのかもしれない。そこまで考えてああ、と気づく。
もしかしたら俺はこの事をとっくに気づいていて、自分自身で気づかないふりをしていたのかもしれない。自分はあの幸せを壊したくなくて。
はは、ったくなんだよ。それはまた随分と
「あり得る話じゃねぇか」
よく考えたらこの可能性の方が両想いだという事よりもずっと高い。
元々人と人が両想いになれる確率なんて低いものだし、同性というなら尚更。さらに顔を合わせれば喧嘩ばかりしているというのが俺達。下手すればゼロに近い。
ああなんであんな奴を好きになっちまったんだろう。なんであんなにアイツは優しいんだろうか。
「まあ、もう遅いんだが」
そうだ、きっと。あの、言葉の続きは。
ーーそっちがそんな態度取るんなら、
そっちが、そんな態度取るんなら?
アイツはこんな時でも優しいからそこで言うのをやめてしまった。本当にアイツの懐の範囲とその深さには驚かされる。
もう。
正直に言って良いのに。
もうどこも、傷つかない。
俺が全て悪いのだと、やっと分かったのだ。
だから、今度は我慢しないで欲しい。
今度は、こんな俺を甘やかさなくて良いから。こんな俺に優しくなんてしなくて良いから。
だから、だから。
別れたいって、素直に言って欲しい。
「ったくつくづく手間のかかる馬鹿野郎だな。お前も……俺も」
明日言おう。
こういうものは、早ければ早いほどいい。
俺はそう結んで目を瞑った。
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作者名:シチ副長 | 作成日時:2018年1月4日 19時