煩悩一 ページ2
「ふぅ」
そう溜息を吐き、伸びをして首を左右に傾げると、ゴキゴキと音がなった。どうやら相当凝っているらしい。まあ長時間ずっと座りっぱなしだったのだからそりゃそうだ。
疲れも溜まっていていつもはこれから少し休むところだが、今日はそうはいかない。なにせ恋人との約束の時刻に大幅に遅刻しているのだから。
時計を見れば午後五時過ぎ。約束の時間はなんと一時。四時間の大遅刻だ。
勿論故意で遅れているわけではない。ただこの間テロがあって、ただ総悟が少し元気だっただけで、それらの始末に追われていたのである。
「……また、か」
紫煙混じりにそう呟くと、腕を立てて天井を仰ぐ。
また。時間に遅れるのはこのところ殆どずっとである。このところというか前のはキャンセルしてしまってもう一ヶ月約束で会っていないのだが。
これじゃあ約束の意味が無い。いくらあの器の広い男でもいつか愛想をつかされてしまうだろう。……あまり考えたくは無いが、可能性はゼロでは無い。今更気づいた。時間通りに行くというのは今なかなか難しいが、その他に何かしてあげられることがあるはずだ。そう、例えば。
好き、って言ってみたり。
瞬間顔がボッと熱くなるのが分かった。ったくなんなんだ俺は。これしきのことで。ウブにも程がある。
「クソっ……」
火照った顔を冷ますように首を振って、首のスカーフに手をかけた。
外は雪が降っていた。
寒いので厚着に着込み、マフラーを巻いているが、やはり寒い。もう一枚何か着てこれば良かったと後悔する。万事屋への道が遠くないのがせめてもの救いだ。
そんなことを考えていると、息をはいて冷えた手を温めながら、先程思いついたことを実践してみようかとふと思い立つ。
好き、なんて恋人同士なら日常で言っているようなことだが、実は自分から言った事は無い。銀時にもたまに言ってくれなんてねだられるし、きっと言ったら喜ぶんじゃないだろうか。いや喜ぶ。プライドの高い普段の自分なら絶対にしないのだが、あの目が優しく細められて嬉しそうに笑うのだと、一度考えてしまえばもう答えは決まっていた。
知らず口元が緩む。
遅れを少しでもなくせるようにと初めから小走りだったのだが、気づけば雪の中を息を切らしながら走っていて、思わず自分でも苦笑いした。
それでも、もう何もかも遅かったのだと俺が気づいたのは、数十秒後のことだ。
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作者名:シチ副長 | 作成日時:2018年1月4日 19時