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母親 ページ28

……


「もしもし」

『A……っ、良かった、出た……』

「……何?」

『私っ、ごめんね、Aに酷いことした。分かったの、Aが居なくて私寂しくて辛くて……だからね、お願い、帰ってきて……』


電話に出れば、母親はしゃくりあげて泣いていた。


私はスマホを持つ手に力を込める。


一郎はただ私の傍にいた。


手が震えているのが分かる。ただ怖いだけではない。たった少しだけなのに勇気を振り絞り切れてない。


そんな私の手を一郎は握った。強く強く、それは安心できる熱だった。


顔を上げて、ぐっとこらえていた気持ちを吐き出す。


「私は帰らない」

『何で……』

「このまま一緒に暮らすと何をするか分からない。もしかしたら殺しちゃうかもしれない。だから帰らない」

『……』


母親か私か、どちらか分からない荒い息遣い。母親は私に何を言うべきか悩んでいる。言葉を選んで考えているのに、出てこない。


私は本当は嫌だった。母親中心で回る家庭が嫌で嫌で仕方なかった。


母親の機嫌で、母親が連れて帰ってくる男、母親が帰ってこない家、母親からの大量の着信、母親が残す冷たくなったご飯、母親が散らかした部屋、母親のブランド物の服やバッグ、そして、母親の甘ったるい香水と爽やかなヘアスプレーの香り。


全てが嫌で堪らなかったの。


今更遅いよ。


確かに愛はくれたのかもしれない。でもそれは私にはただの呪いにしかならなかった。


「もうやめよう。家族やめよう。さよなら」

『待っ────』


電話を切った。


襟元が濡れていた。馬鹿みたいに涙を零していた。


一郎の手を私は固く握っていた。手汗が滲んでぬるついていた。


「A」

「一郎、ありがとう。私言えたよ。もう大丈夫だから」


そう言えばまた涙が零れた。


一郎は私を抱き締めた。

溺れていたかった→←逃げ場



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海老天ぷら - おと姫と愉快なサカナたちさん» ありがとうございます!嬉しいですっ!不定期更新ですが、がんばります! (2021年12月10日 19時) (レス) @page35 id: 8ac8a7e5a1 (このIDを非表示/違反報告)
おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - すごく引き込まれます…更新頑張ってください!! (2021年11月9日 7時) (レス) @page34 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:海老天ぷら | 作成日時:2021年1月28日 10時

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