【名も無き恋の唄】 ページ34
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ほんの気まぐれな遊びのつもりだった。
目の不自由なこの女が、どこまで生きられるか、見物だと思ったから。
「綺麗な声……」
「は?」
こいつは僕が鬼と知っても恐るどころか声を綺麗と褒めてきた。
だいぶ頭のおかしい子どもだな。だから親に捨てられるんだ。
でも、こいつはいつだって何度 脅したって屈せず笑っていた。
「手を差し出してくれてありがとう」
「美味しいご飯をありがとう」
ふざけるな。僕の住処で野垂れ死にされたら困るから仕方なくしていることなのに。
自分が分からない。どうしてこいつは僕に付きまとう?
一度だけ、僕の“家族”がこいつを喰おうとしていたことがある。
僕は無性に腹が立ち そいつを切り刻んで殺した。
女は恐怖に震える体を抱きしめている。
「守ってくれてありがとう」
不細工な笑顔。それが僕の心を酷く震わせた。
そして悟ったよ。
こいつは僕無しでは生きられないのだと。
嗚呼、なんて楽しいんだろう。
家族とは違う気持ちが僕の心を満たしていく。
こいつをもっと僕から離れないようにしたら、この心はもっともっと満たされるのだろうか?
「私は貴方の“家族”?」
“家族”?
いや、お前のあり方はそれじゃない。
「お前は“家族”じゃない」
どうして悲しそうに笑う?
それだけで僕の心は抉れて痛い。
素直に家族と呼べたなら、この痛みは消えるのか?
否、それだけではこの痛み 深まるだけだろう。
何故かそう察した。
じゃあ
お前は僕の─────なんだ?
答えは分からぬまま、僕は
最期に、お前の笑顔が見たかったな。
想いは音となる前に夜の空へ消えた。
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