番外 其の弐【名も無き恋のうた】 ページ33
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どうして…………?
どうして……………?
───────どうして私ではいけないの?
……………
私は生まれた時、視力を母の中に置いてきてしまったのか目が良くない。
辛うじて色と輪郭の判別は出来るが、それがなんなのかまでは分からなかった。
出来が悪いと親に嫌われ罵られ、鬼が住むという山に捨てられた。
そこで出会ったのが
「……人の子か」
一人の鬼の
不思議と怖くはなかった。
だってこの時の私ってば。
これで終われるのか、とか次は目がちゃんと見える生き物に生まれたいな、とかなんか悟っちゃってたし。
それどころか
「綺麗な声…」
「は?」
この声に一目惚れしてしまっていたから。
まさかこの声の主が鬼だなんて思わなかったけど、知ってからも彼を見る目は変わらなかった。
彼も最初は私を殺そうとしていたみたいだけど、私の素っ頓狂な発言に呆れて気が失せたみたい。
付きまとう私を何度も何度も突き放して
時に糸を使っても来たけど。
それでも、最後には傍に置いてくれた。
「そこ、雪が深いから」
優しく手を差し伸べてくれたり。
「うぇっ、人間の食べ物ってこんなドロドロしたのなの?……要らないからお前食べて」
食べ物を恵んでくれたり。
「人間は貧弱だね」
敵から守ってくれたり。
不器用な優しさに、私は段々と惹かれていった。
なのに
「君の妹を僕にちょうだい!!」
──お前は家族じゃない──
私を“家族”と呼んでくれないの?
どうして私を人間のまま傍に置いてくれたの?
私では役不足だったの?
私はッ……………貴方の家族になりたかったのに。
大好きだったあの声は、
もう聞こえない。
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