壱 ページ27
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「では、この煉獄が審判役を務めよう!二人とも、男らしく、正々堂々勝負するんだぞ!」
机の脇に控えた煉獄さんが真っ白な歯を見せ高らかに宣言した。
あ、冨岡様の両の目が陽の光を見る時みたいに細くなってる。
悲鳴嶼様は……お?宇髄様と何やら頷きあってるけど。なんだろう、胸騒ぎがする。
文机の上に乗せられた悲鳴嶼様の───文字通り岩のような手を、冨岡様が無表情に握る。
そして……………
「……一体、どういうことなんですか」
胡蝶様の小さな呟きに激しく同意したい。
本来の作戦ならば、腕相撲で冨岡様を勝たせ良い気分に、あわよくば笑顔に──というものなのだが。
蓋を開けてみれば、悲鳴嶼様に瞬殺されたどころか、宇髄様や煉獄さん、不死川様にまで負けている。辛うじて甘露寺様には勝っていたものの。
これでは笑顔どころか心に傷をつけかねない。
チラリと冨岡様の方を見れば、無の顔のまま座敷の隅に座っている。え、座敷わらし?
胡蝶様が宇髄様に笑顔で詰め寄っている。額の血管が浮きでているよ。コワイ。
ボクはスヤスヤ眠っている時透くんを己の膝から下ろし隊服上着を畳んだ物にそっと乗せた。
足音も静かに気を遣い冨岡様の元へ。
途中、口論になっている胡蝶様と目が合いお互い頷く。
──そちらは任せましたよ。
そう言われた気がする。
重くなった背中で冨岡様の肩に手を置く。
澄んだ湖のような瞳がこちらに向いた。
さて、どうしたものか。
おもむろに口を開いた。
『冨岡様、この前の任務はどうでしたか』
「どうということはない」
『そうですか』
「……」『……』はい、終了。
はっきり言おう。ボクと冨岡様はそんなに面識が無いのだ。まともに会話したことない!
早くも根詰まり助けて胡蝶様ー!
ボクが、あーうーと頭を悩ませていると珍しく声をかけられた。
「雪本は『雪村です』……」
名前すら覚えられていないとは、少し心が傷つきましたぞ冨岡様。
一瞬止まった口も再度動き出した。
「雪村は兄弟を探しているそうだな」
『あ、はい。弟ともう一人』
「当時はどこに住んでいた?」
『確か……雲取山だったかと』
「……そうか」
『??』
いきなりそんなことを聞いてどうしたのだろう?
なんか思い悩んでるし、あれ?ボク何かいけないこと言っちゃった?
問いかけようと手を上げた瞬間
「と・み・お・か・さ・ん」
背後に桃色の影が忍び寄っていた。
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