6 ページ6
宿に向かいながら、自分たちの話をした。
「父は、休暇で帰ってくるたびに、樹さんの話をしていました。」
懐かしそうに彼女はそう言った。
「『俺が他のヤツの懐中時計を直してたら、少佐に声かけられたんだ、少佐だぞ！』って。」
「それまで、見たことなかったから。時計の中とか。」
「はい。『少佐がやってみたいって言ってな、いろんな合間に時計の修理を教えることに
なったんだ、少佐に！』と言っていました。」
こちらが驚くくらいに嬉しそうでした、という言葉に、ふ、と小さく声が出た。
「…まぁ、確かに士官が技師に声をかけることなんてめったにないからな。」
「父には本当によくしていただいたみたいで、ありがとうございました、」
「………いや。」
戦争が終わって。
片腕がなくなっても、ひとりで生きていても。
「……親父さんが技術の全部を俺に伝えてくれたから、やることがあって、普通に生きてる。」
「？」
「過去に取り残されずに、生きてられる、ってこと。」
騒がしく歩いてくる酔っ払いから彼女をかばいながら、そう言うと。
「……わかります、」
ぽつりと彼女が呟いた。
「学ぶということを、父は遺してくれました。」
時間を忘れて学べる分野を見つけられたから、やれることがあるので、普通に生きてます、と嬉しそうな声がした。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
なんと作品に順位がつきました…！
ちょっとジャンル的に皆様のツボに
はまるかどうか不安だったのですが、
ハートもお星さまもお気に入り登録も
たくさんしていただいて嬉しい限りです。
これからも遊びに来ていただけるのを
楽しみにしています。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
月華
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 251人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
