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動く雲を眺めて、ベンチの背もたれに身を預けたまま、若武が口を開いた。
「俺、最近さ、柔軟性を重視して動いてんの。
前から、何か変えなきゃいけねぇと思ってて、今回は、その引き金になる要素が集まったってだけなんだけどな。
でも俺はまだ、未来像でも、自分の夢でも、漠然としたものしか頭に無い。
もしかして今、俺の向いてる方向性と、俺が本当に進みたい道が、ずれちまってるんじゃないか。
このまま走り続けて、正解なのか。」
若武はそこで口を噤んだ。
そして、視線は頭上に向けられたまま、彼は小さく呟いた。
「分っかんねぇ…」
…今日は、若武に驚かされるばかりだな。
良くも悪くも突っ走り続ける男、それが、多くの人の目に映る若武和臣だ。
プレッシャーがかかればかかる程燃えるようなヒーロー気質で、他人から理解されづらい。
だからこそ、若武が目的への軌道からずれている時は、軌道修正の手助けを。
大きな何かに向かって、ただひたすらに己を信じて突き進む彼の前に、周りが道の舗装で支えてやれば、若武の強みが活かされると思っていた。
だがその周りの手助けが、若武の道を一択に絞らせていたのだ。
若武は、考えることが追いつかないほどの速さでも進むしかないその状況で、必死に自分を見つめていた。
『若武には、可能性があるよ。』
高層ビルや広告掲示板、大きく現代的な文化に囲まれた秀明グラウンドの、奥に小さく見える木々を見据えて話す。
『道を、必ずしも切り開かなきゃいけない訳じゃない。
若武の持つ可能性で、自分を空に溶け込ませてみなよ。
やりたいことが見えて来た時、地球を包む大気圏みたいに、360°の選択肢を選べる状況を、作っていけばいいと思うよ、俺は。』
若武が、ただただ真っ直ぐ、前を見つめた。
その瞳に、静かに、光が差し込んだ。
「そう、か。」
勢い良く立ち上がり、俺を見下ろす若武。
肩の荷が降りたような、振り切った笑顔だった。
「黒木、サンキュ」
『頑張れよ。』
微笑んでそう返せば、若武は、ああ、と返事をして自転車に跨った。
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あおい(プロフ) - 完結後、読ませていただきました。どのお話も、少し考えさせるような、奥が深いもので、私もこういう小説を書いていきたいです。 (2020年4月28日 7時) (レス) id: 331ddf8f4c (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - 完結おめでとうございます!どのお話も奥が深く、読んでいてとても考えさせられました。とても面白かったです。 (2020年4月18日 8時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - 完結おめでとうございます。どのお話もすごく心に残り、自分と重ね合って読んでいました。すごくいいお話だったと思います。 (2020年3月31日 19時) (レス) id: eb71493e70 (このIDを非表示/違反報告)
小幅 - とても面白い作品ですね!続きが楽しみです。 更新、無理しない程度に、頑張ってください! (2020年3月30日 15時) (レス) id: 62007663da (このIDを非表示/違反報告)
はんな(プロフ) - 情景描写がくわしくて、上階が本当に浮かんできます!素晴らしすぎる… (2020年3月28日 11時) (レス) id: 3170240b5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷・結・ゆいなー・あお・ここは x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hp-rei/
作成日時:2020年3月24日 19時