福沢諭吉 秋刀魚 ページ31
七輪の網の上、二尾の秋刀魚がその瞳を潤ませ、尾をピンと立て、高い空を仰いでいる。
パタパタと。
Aは団扇で炎を煽る。
熾火に近い赤炭で、のんびりじぶじぶと。脂が滴り、少しずつ焼き目の付く皮が香ばしいのか。
二匹の猫が、現れた！
挟まれた。
鋭い眼光、立派な毛並。一寸でもこの場を離れたら、恐らく危ない、秋刀魚の命はない。
あ。
待って、台所の窓が開けっ放しだったかも……瓦斯の元栓……電気も消してきたかしら？
一つ考えると色々……でも今は離れられないし……緊急事態――
「あ」
「…………」
視線の先には、お隣の、仏頂面の。
「こんにちは福沢さん！一寸代わってくださいな！」
「な」
来て頂き、腕を引っ張り、団扇を渡し、猫の囲む七輪の前へ。
「秋刀魚と猫と火！見といて！直ぐ戻りますから！」
「A――」
名を呼んだが、そそくさと家の中に入って行ってしまった。全く、相変わらず、何時も唐突に忙しい子だ。
それにしても。
こんなに猫に挟まれるのは、およそ初めて、久方振りである。Aには感謝しなければ。
しゃがみ込み、団扇を仰ぐ度に七輪に空気が供給され、赤くなり、魚は音を立てる。
秋のさやけさを感じる、季節の香り。葉がちらほら降ってきた。
欠伸もしない各猫との真剣対峙、その行く末は。
「お待たせしましたー！ありがとうございまーす！」
両者何方も動かず、主が戻って来た。事態は変わらず、彼女の心配事のみなくなり、二人と二匹で七輪を囲む。
「お、流石は福沢さん。秋刀魚も火も、良い塩梅です」
「……む」
「あ。あの、頭、失礼しますね」
頭に触れられた。ふわりとした感触。何故か心も、ふわりとした。
「葉っぱついてました！」
「――恩に着る」
遥か空の上、鳶が鳴いて。
「はい焼けた！聴衆の皆様、面倒をありがとうございました！」
福沢と猫に挨拶をし、秋刀魚を皿へ移す。
二尾は紅葉色に照り輝いており、全員唾を呑み込んだ。
「福沢さん、今日、江戸川さんは？」
「夜までいない」
「あ、じゃあ」
火の後始末をしたAは、野に咲く秋桜の様に、頬を緩めた。
「四人で頂きましょうか！」
「……そうだな」
天高く馬肥ゆる秋。
猫達はミャアと、尻尾を揺らす。
「何かけます？」
「……大根、おろし」
「カボスもありますよ！」
始まる、
深まる、
貴方との秋。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 80人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
午(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます！また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します！更新頑張ってください！ (2019年12月21日 23時) (
レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です！ありがとうございます！ (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです！めっちゃ良きでした！！突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません！また募集している時にいきます！更新待ってます！(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場！！(*ﾟ∀ﾟ*)嬉しいです！(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます！只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します！ (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：午 | 作成日時：2019年8月25日 17時
