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谷崎潤一郎 柿 ページ26

「谷崎さん、上着どうしたんですか?」


 敦の疑問に、谷崎はたじろいだ。何時も腰に巻いている朱色のパーカーがない。


「ふふ、それはですね。昨日、帰り道に居た捨て猫にあげてきたそうなんです。はぁ、素敵っ」

 彼の両肩に手を置き、代わりに、心底嬉しそうにナオミが解説。
 顔を紅く染める妹に、そんな大した事してないよと兄は苦笑した。


「流石です谷崎さん!その猫、拾い主が見付かると良いですね」

「そうだね……ありがとう」


 新人の言葉に勇気付けられる谷崎。
 服と夜食の残りしか与えられず、寒い中置き去りにしてきてしまったことを後悔していたのだ。


 彼は、優し過ぎる。


 と。


 探偵社入口の扉からノック音。かなり、低い位置から。


「はーい」


 谷崎が扉を開けると、小さな少女が居た。ニット帽を被り、そして。


「依頼人の方ですか?」

「……」


 無言で此方を見上げてくる。


「あ、誰か社員の知り合いかな?えーっと」


 谷崎が振り向こうとすると、その裾は掴まれる。
 再度その少女に目を向けると、俯いていた彼女は意を決した様に、その両手を差し出した。


「それ――」


 その両手には、見慣れた朱色のパーカー、そして。


「ぁりがとぅ」

「え?……うわっ!?」


 絞り出す様な声と共に、そのパーカーに包まれていたのは、沢山の柿。
 小振りだが、綺麗な色の、美味そうな。


 それらを見て、
 見ただけで。


 谷崎は柿とパーカーごと、彼女の腕を掴んだ。


「君、あの猫拾ってくれたの?!あ、ありがとう!」


 パチクリと。
 少女は瞬きした。


「わざわざ返しに、探してくれたんだ!お名前は?僕は谷崎潤一郎」

「……ぇ、ん、A」


 喋る事が難しいのか、Aから発されるのは小さく短い言葉ばかり。


「無理しないでいいからね」


 その昼休みは、直ぐ其処のソファで柿を食べながら、Aとお話をした。


「僕、猫好きなんだ。今度また、元気な姿を見たいな」

「ぅん」

「この柿、とても美味しいね。お家の物?」

「ぅん」


 楽しい時間。
 それは刹那に過ぎ去るが、

 唯一無二の、大事なモノ。


「それじゃあまたね。Aちゃん」

「ぅん……潤一郎さん」


 扉が締まり切るまで、何時までも見つめていたい、笑顔だった。


 そして、


 その建物から出て来るは一匹の猫。
 上機嫌に鳴いて。


 又沢山お喋り出来る様、
 今日もAは、


 柿の木を、探しゆく。

泉鏡花   鰻丼【雪ノ葉様Req.】→←谷崎潤一郎 金平糖【月瀬様Req.】



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 短編集 , 甘い   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます!また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します!更新頑張ってください! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です!ありがとうございます! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです!めっちゃ良きでした!!突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません!また募集している時にいきます!更新待ってます!(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場!!(*゚∀゚*)嬉しいです!(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます!只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します! (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月25日 17時

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