中島敦 小籠包 ページ3
少し肌寒い雨の日。
「わぁ、温かいです!」
その身体を温める為、中華街一角の店内へ。
Aの声は弾んでいる。
「Aちゃん、どれでも好きなの、頼んでね」
テーブルの影で財布の中身を確認しながら、笑顔で敦は云う。
そうとは露知らず、キラキラした瞳で、彼女はメニューを凝視する。
「先ずはスタンダード……カラフルなのもありますね、唐辛子味?」
赤い皮の唐辛子味。
黒い皮の黒胡椒味。
緑の皮の野菜小籠包に、
黄の皮のチーズ小籠包。
これぞ、彩り選り取り見取り。
「敦先輩」
メニューから視線だけを、彼に投げる。その上目遣いに、敦の心はときめいた。
「注文、決まりました」
「分かったよ」
敦の、ふにゃっとした雰囲気。その腑抜けた顔は、店員が来ても直らず。
「こっからここまで全部、ニ人前ずつお願いします!」
その可愛らしい注文で、やっと強張った。
「わあ!店員さん、蒸籠の中の配置を考えてくれたんですね!映える!」
大変楽しそうなAの様子に、
喜んでくれているならこちらも嬉しいという多幸感と、
今月を生き抜けるだろうか……という不安感が混ざり合う敦。
「頂きます!」
「……い、頂きます……」
レンゲの上に、千切り生姜が飾られた白い小籠包をのせ、その薄い皮を破けば、中から湧き出す美味しいスープ。
レンゲの上なので、溢れない。
そのスープを吸い、続けて一口で口の中へ。
「お肉ジューシー!皮もっちもち!」
葱がたっぷり入っているからか、あっさりしていて、いくらでも食べられる!
バリッ。
それは、敦が羽付焼小籠包を食べた音。
蒸しただけのと違い、香ばしさとパリパリ感が堪らない。
「敦先輩、美味しいですか?」
「うん」
柔らかな笑み。
その水面下は、曇り空だが。
「敦先輩も美味しいご飯好きだから、一緒に食べるの、大好きなんです」
Aも釣られて一緒に笑った。
「次は何処、行きましょうね!」
「………」
その、純粋な想いと、気持ちに。
「分かった……僕、此れから、もっと頑張るよ」
決意した。
「Aちゃんの幸せそうな顔が大好きだから――此れからも一緒にご飯を食べる為、頑張って働くよ!」
「わーい!」
全ては貴方の為に。
全ては君の為に。
その為なら、どんな苦しみだって悲しみだって。
その告白に気が付かぬまま、
微笑む二人は、
幸せの中。
80人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
午(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます!また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します!更新頑張ってください! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です!ありがとうございます! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです!めっちゃ良きでした!!突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません!また募集している時にいきます!更新待ってます!(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場!!(*゚∀゚*)嬉しいです!(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます!只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します! (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:午 | 作成日時:2019年8月25日 17時