2 文豪グルメ 短編集【文スト】

中島敦　　　もんじゃ（学スト）【ウミソラ様Req.】 ページ1

「あった！坂口委員長オススメのお店！」

「わぁ…良いお店ですね」


　共に訪れた老舗のお好み焼き屋。座敷にのぼり、お冷やで一息つく。


「ほら敦、好きなの頼みなよ」

「あ、ありがとうございますA先輩」


　メニューを食い入る様に見る敦。周りの人々の会話や、鉄板の焼ける音が妙に心地よい。


「あ、多分あの席が、委員長のいつも座っている席かも」

「常連なんですね。うーん。メニュー、迷います……」


　弱気な声と上目遣いで此方に助けを求めてくる敦。うんうん、どれも美味しそうだもんね。


「じゃあ、もんじゃとかどう？この時間帯限定みたいだし」

「わあ、僕もんじゃ初めてです！じゃあ――」


　運ばれてきたのは。
　お椀沢山のもんじゃ生地、キャベツに天かす、そして目を引く大量の明太子！


「よーし、先輩が焼いてあげよう」

「もんじゃ作れるんですか！す、凄い！」


　とはいえ作り方を見ながら。


　まず、具材を炒める。香ばしさと熱気で辺りは包まれる。

　そして土手を作り、生地を半分流し込んだ。


「えぇ！こうやって作るんだ！良い匂い！」


　敦の新鮮過ぎる反応が、とても可愛い。

　沸騰してきたらかき混ぜ、残りの生地も同様に、薄く広げ、縁に焦げ目がつけば……


「はい！熱々の内にどうぞ！」

「頂きます！」


　小さなコテで、すくって食べる。熱かったのか、肩は跳ね、頬は真っ赤、然し喜色満面で。


「お、美味しい！ぱりぱりとピリ辛がもったりして、ジュワッてします！」


　謎のオノマトペ的感想。敦がどれだけ衝撃を受け、そして美味しかったのかが分かった。


　たっぷりの明太子、海老と烏賊は食感と風味豊かな香りを運んでくれて。

　うん、上手く出来て良かった。


「きっと、A先輩が作ってくれたから美味しいんですね！」

「えっ」


　て、天然タラシ！
　いやまあ確かに、敦の事を想って作ったけれど！
　

「そ、そういえば！委員長も、自分で焼くんだって！」

「そうなんですか…」

「それと！委員長、鉄板で火傷したって聞いたけど、ほんとかな？」

「…………」

「敦？」
　
「もう……坂口先輩の話ばかり、しないでください……」

「……」

「………」


　Aは。
　ふはっと笑った。


「な、何で笑うんですか！」

「ごめんね、嬉しくてね」

「もー！」


　もんじゃの様にジブジブ沸騰する敦の心と、


　幸せ広がるAの心。


　全て一体となった、
　特別な放課後。

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