【文スト】虫愛づる花嫁【小栗虫太郎】

13　はなか、とりか ページ13

むし？


「小栗虫太郎だ。賓客だぞ、私は」


　腕を組み、溜息を吐きながら自己を紹介する彼をじっと見詰める。


「むし、たろー、さん」


　つい言葉に出てしまった……
　…………変な名前！


　でも。


　本当に彼の事は知らないけれど、
　名前を聞いただけで高鳴る鼓動。


「…………」


　虫って、いいよね、人よりも。


　この家には余り出ないけど、


　覚えている限りの記憶の中には沢山居て、
　本を沢山見て、文字を食べて、覚えた。


　虫は食べてない、好きだから。


「…………」


　様々な姿に変化、変態するところ。
　自然と、花と共存しているところ。
　頑張って慎ましく生きているところ。


　人と違って、言葉で私を傷つけない、ところ。


　人は余り、好きじゃない。


　蝶よ花よと持て囃しながらも、
　結局、心の内は計り知れない。


　チクチクしたり、ニョロニョロしたり、ぐにょぐにょするのもいるけれど、


　手の平の上で転がる、


　取り繕わない、可愛い生命。


「…………」


　其れを知った人達は、
　怖がり、糾弾する。


　虫を、私を。


　だから未だ、虫の方がマシかなー、


　人よりも。


「んー…………」


　却説、話が逸れたけど。
　

　おぐりむしたろう。


　それは一体、
　どんな文字を書くのかしら……？


　どんな風に。


　小型雀蜂の様な視線に、
　青虫ーー紋白蝶の幼虫の様な格好、
　熊蝉の様に消魂しく、忙しない。


　この人は、見た目で判断しないで、


　全て理論的に見てくれる気がする。


　気が、するー。


「………………」


　だから、
　どんな風に、なるのか、


　とっても、楽しみになってきた。


　今の所、紙魚目の様な所は、ありません。


　黄金虫の様に整った服装と、白筋髪切の様にぴょんぴょんとした髪型が、
　とっても愛らしい彼は、


　どんな風に転がって、
　どんな風に私を、


　楽しませてくれるのかしらーーーー

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