25:不意なる噂 ページ25
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私はいつも運に恵まれている方だと思っていた。
思えば受験票を失くした時も、球技大会で決勝まで残った時も。
全部私の実力じゃなくて運が良かったからだ。
思ってもいない方向に事が全部進んできたおかげ。
……なのに、いざ私が凛くんを遠くで見守ろうと決めた瞬間から、その法則は変わってしまったみたいだ。
「A、糸師くん来る!」
「やばっ」
もうこの6日で何度目かになる凛くんとの遭遇。
会いたいと思った時には会えないのに、こうして顔を合わせたくない時には嫌という程発見してしまう。
凛くんに見つからないように慌てて回れ右して女子トイレに逃げ込む。
こんな生活がもう一週間も続いていた。
「はー……。この生活、結構つらい」
「弱音吐くな―! Aなら出来るぞ!」
「ていうか、土日一回も連絡きてないんでしょ?
凛くんも興味なくなってんじゃない?」
「まあ元々孤高の人だったからねー」
鏡で前髪を失くしながら、私のかくれんぼに付き合ってくれる友達がそう零す。
確かに、凛くんは元々誰かに執着するようなタイプではない気がする。
……というか、私に執着はしないと思う。
時折見せるあの寂しい背中は、きっと誰かの思いを背負う重たいものだ。
とどのつまり、私は凛くんの全部知った気でいて、何もわからないまま遠ざかってしまった。
でも、これで良かったんだよね。きっと。
「糸師凛行ったよ」
「はー、戻ろ戻ろ。てかお腹減った」
「ねーもう最近全然行ってないし今日は食堂で食べない?」
「良いね、そうしよ!」
どうせ凛くんはいつもの如くサッカー部の人たちと部室で食べているだろうし、もし万が一食堂にいたとしても、体育館の次に広い食堂で、しかも人がごった返すお昼時に誰がどこにいるかなんて全然分からないだろうし。
久しぶりの食堂のアイスに足が早まる。
自分のお弁当を手に、私たちは教室を出た。
「うわ、もう混んでる」
「あっこ6人のとこ空いてるよ」
「いいじゃん、あそこにしよ」
4限終わり、割とすぐに来た筈が食堂はもう半分以上席が埋まっていた。
真ん中の方の席を確保して私は一番端に座った。
長い机は貴族の晩餐会みたいだ。
久々に楽しんで友達と歓談してると、先程までの食堂の雰囲気が若干変わった。
皆誰かを探すみたいに、周りを見渡している。
「なあ、糸師凛が食堂来てるって」
不意にそんな声が耳に入ってしまった。
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時