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実感した途端途方も無い羞恥心に襲われ、咄嗟に席を立ってしまった。
「失礼します」
嗚呼、なんて切ないの。
家名を語れない私はこんなにもちっぽけで実のない人間だなんて。
自覚したく無かった、知られたくなかった。
ーーー初めて自覚した恋心だったのに。
「待って下さい、Aさん」
手を掴まれ、振り向けば
真剣な顔をした月彦さんが真っ直ぐ私を見据えていた。
「貴女は素敵ですよ、その淑やかさと容姿の美しさは、貴女のこれまでの生き方を物語っています、空っぽだなんてとんでもない」
「..え......」
「だから自分を卑下にするのはお辞めなさい」
こんな風に他人を認められる人格者が他に居るだろうか。いや、居ないだろう。
ひんやりと冷たい月彦の手を強く握るAはうつむいたまま、一筋の涙をこぼした。
「私.....親の決めた結婚が嫌で家を出たんです。親不孝なのは重々承知でした、でも、好きでも無い人との結婚だなんて、耐えられない」
感情が溢れ出し、際限なく涙が溢れる。
「月彦さん、どうか、どうか私を.....」
涙で濡れた顔をした彼女をあやすかのように月彦は優しくAを抱き寄せる。
「.........後悔しませんか?」
「後悔なんて無いです、私を.....月彦さんのお傍に置いてください」
ーーーーーーー世間知らずすぎたのだ。
令嬢として花よ蝶よと育てられた彼女は
自分自身に向けられる悪意の存在を知らなかった。
“幼き日に起きたあの事件”から、彼女へと向けられる悪意の芽は全て父が摘んでいたのだから。
ーーーーーーー彼女は男の腕の中で思った。
(此処が、私の居るべき場所)
黒のスーツに身を包んだ男の中で彼女は安堵した。
まさか自分を抱くこの男が、諸悪の根源だなんて思いもせず。
「ああ、分かったよA」
そう言い放った男は堪えきれず顔を歪めた。
それは それは 恐ろしい笑みを 浮かべて
恋は盲目 底なし沼
嵌ってしまえば、もがけどもがけど
抜け出せぬ。
(ああ、このまま時が止まってしまえばいいのに!)
ーーー稀血の女は、鬼の手に堕ちた。
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時