01.儚い青春 ページ3
「ねえねえ、Aって烏野の出身なんでしょ?」
就職を目前に控えたある日のこと。
一緒に飲みに来ていた友人の一言で、私は口に含もうとしていたビールのコップの縁をすんでのところで止めた。
「ああ、うん……。まあね」
「烏野って男バレ強いところでしょ? けどさ、一時期 “ 落ちた強豪、飛べない烏 ” とか呼ばれてたじゃん。Aがいた頃ってどうだったの?」
「……不遇な時代でもあったし、運に恵まれた時代でもあったかな」
「え、どゆこと?」
私は結局ビールは飲まずにテーブルに置いて、肘を立てて頬杖をついた。
「私が一年の時は、IH予選は二回戦敗退だったし、その頃の烏野は良くて県ベスト8とかの成績。特別強くも弱いわけでもない……誰の目にも留まらない高校だった。私が烏野にいた頃の五年前くらいまでは全国に行けるくらい強かったらしいけどね」
あの頃の短く儚い青春の日々を思い出しながら私は語った。あの烏野男子バレー部の真っ黒なジャージは今でも持っている。
「まあ、そんな感じだった。私が高校二年生の頃までは。でも、三年生になってからかな。超奇跡的な速攻を使う、他校からは『変人コンビ』って呼ばれた二人が入学してね……。
かつて烏野を全国に導いた名監督、烏養元監督のお孫さんがコーチになって、顧問の先生もバレー経験者ではなかったけど、すごく熱心に部活に取り組んでくれて……」
「もしかして、その年に全国行ったの!?」
「IH予選の時はベスト16止まりだったけどね。春高予選で決勝まで進んで、当時の全国三大エースの一角だった牛島若利がいた白鳥沢倒して……春高は全国に行ったよ」
「へえーっ! 牛島若利って、今の日本代表でしょ!? すごいね!! っていうか、なんでAはそんな詳しいの? あ、もしかしてマネージャーやってたとか?」
「一応はね」
「……え、マジ?」
「マジ」
まさか本当にマネージャーをやっていたとは思わなかったのか、友人が目を丸くした。
そんな友人の様子を見て、慌てて手を振る。
「マネージャーっていっても、私は中途半端にやってたから。『私、烏野のマネージャーだったんだよ』って誇れるようなことしてないし」
「何かあったの?」
「……」
私は何も言えなかった。
もう六年前になるあの日々。
私のあの選択は正しかったのか。もう戻れないのに、わかってるのに、いつも考えてしまうのだ。
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昆布の神(プロフ) - 虹四葉さん» コメありです! 烏野大好きです……。おまけ話みたいになるんですけど、浦塚さんはお勉強をよくしているので甘党という設定になっていて、それゆえに悩みがあんなエグいことになっています() (2021年9月3日 22時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
虹四葉(プロフ) - コメント遅れたけど、烏野メインは最高です昆布様。あと、浦塚さん.....ココアにキットカットは流石に甘すぎるのでとりあえずヤバイっす。 (2021年9月3日 22時) (レス) id: 550a2fdb83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2021年5月4日 8時