エーデルワイス【1st】【グルーシャ】 (ページ45)

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・ページ45

作中最も印象がいい意味で変わる人気青年ペパー君。

＿＿＿＿＿

ポケモンが好きなのか、それともただの研究対象として見ているのか、いまいちよくわからない。

彼女から感じた不安定さは、間違いじゃなかった。炎のように揺らめいていて、毎日流れが変わる風に乗っているから、どこを見据えているのかがわからないのだ。

「守るべきものです」

ハッと顔を上げると、Aさんは笑いもせずにじっとぼくを見つめていた。

「ここの言葉で言うと、宝……とでも言うのでしょうね」

無機質で機械的。その中に垣間見えたこれこそが彼女の人間性とでも言うのだろうか。Aさんが自身の手持ちポケモンといるところを見たことがない。……彼女は、自分のポケモンに対して、どんな目を向けて、どんな表情(かお)をするのだろう。

「そうだ。ハルトさん。アナタ、ペパーさんと面識があるのですよね？」

「え、まあ、はい、いや……一応」

全く話したことはないし、大した友好関係も築けていないのだが。ただ、『おっ、意外とやる気マンマンちゃんだな』と言った時の表情(かお)は笑っていたし、アオイの言う通り、本当に悪い人ではないのだと思う。

「ペパーさんがアナタのことを捜していました。食堂にいらっしゃる筈なので、会いに行ってあげてください」

「……ぼく？」

「はい。アナタです」

「アオイじゃなくて？」

「はい。ハルトさんです」

「Aさんは？」

「私はグルーシャと帰ります。三日後の課外活動、頑張ってください」

それだけ言って、Aさんは去っていった。

水の中を泳いでいるかのように掴みどころのない人だ。ちゃんと目に見えているはずなのに、本当に存在しているのかと疑問に思ってしまうほど。

＊

＿＿＿ ✕A

＿＿＿＿『知らないことやわからないことを調べたり、自分なりに考察することが昔から好きでした』

＿＿＿＿『だから、子供ながらに小さい足でほっつき歩いて、その度にグルーシャや親に捜されて連れ戻されたりして……』

苦い思い出をよくもまあ淡々と話せたものだと、旧館の廊下を早歩きで通り過ぎながら頭で考えた。
自分の中の焦りを加速させるように、静かな旧館に自分の足音が早々と鳴り響く。

学生時代に良い思い出など無い。頭にあるのは、悪魔みたいな顔をして、人の不幸を甘い汁を啜るように味わう人間達の姿だけ。