・ ページ6
*
庭で小さな水飛沫が跳ね、ぴちゃぴちゃと水の音が鳴る。
朝の水浴びは、マリルリにとって朝風呂のようなものなのだろう。確かに、疲れた状態で入る夜の風呂よりも、涼しげで爽やかな空気の漂う朝風呂のほうが気持ちよく感じる。
小さな家庭用プールに張った水の中で無邪気に跳ねるマリルリを見ながら、昨日の夜のことを思い出した。
家族は、私の顔を見るなりぶわっと糸が切れたかのように泣き出して、誰かが泣くのを見たのは久しぶりだったので、どんな対応をしたらいいのかわからなかった。
帰り際、グルーシャには、帰ってきたならぼくよりも先にまず家族に会いに行けよ的なことを言われたが、なんとなく家には帰りたくなかった。
家以外で行ける場所といえば、グルーシャのところで、一度グルーシャの家に行ったけど、彼の部屋の明かりがついていなかったので、仕方なく雪山に行ったら、いつの間にかグルーシャがジムリーダーになっていたのでびっくりした。
____『元スノーボーダーのグルーシャの事故、残念だったよなあ』
登山道でふと耳に入ってきた言葉で、大体のことを察し、実際に会ってみれば、グルーシャもグルーシャで昔より冷めた性格になった気がする。
グルーシャの事故やジムリーダーになったことを知らないはずの私がジムに訪れて、多少は驚いたのだとしても、グルーシャがそのことに触れようとしなかったのは、もしかしたら、彼も詮索されたくなかったのかもしれない。
そうだよね。だって……。
____ビシャッ。
……頭が冷たい。
ふと我に返ってマリルリを見ると、まるで悪気のなさそうな笑顔で私を見ていた。
「こーら」
と言いつつ、マリルリの頬をむにむにと揉むだけで終わらせてしまう私は、結局自分のポケモンには甘いのである。
「リル〜」
誰だって、自分のつらかったことや苦しかったことを掘り返されるのは嫌だろう。そんなことされたら、泣きたくなってしまうから。悔しさや虚しさで、心が押し潰されてしまうから。
「ねえ、マリルリ」
呼びかけると、マリルリがつぶらな瞳で私を見上げた。
ルリリのときから、その瞳だけは変わらない。
「……
51人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2023年2月25日 23時