第十五話 ページ17
雪道をひたすら歩き、アシリパさんを探す。そんなに遠くへは行っていないのですぐに見つかるはず…だ。
「アシリパさーん」
杉元さんが見ている方を見ると、確かに彼女の姿があったのだが、その横には彼女よりも大きな、白い犬のような生き物が横に座っていた。いや、あれは犬ではない。
「良かった無事だったか。あ…あの時の白いオオカミだ。」
「オオカミって…絶滅したはずでは？それにあの時って？」
「前にヒグマに襲われた時、アイツが助けてくれたんだ。」
すると彼は上着に仔熊を隠し、静かにしていろよと釘を刺す。近くまで来ると、そばには右足を逆方向に曲げられた男が横たわっていた。
「そこの兵士はオオカミが？」
「死んでいるのですか？」
そう問いかけると、彼女は少し黙り込む。
「行こう、もう死んでる。」
杉元さんに視線を移すと、思わずギョッとしてしまった。仔熊が杉元さんの襟から顔を出してしまっている。彼女に気づかれる前に何とかして杉元さんにこれを…
「杉元そてどうした？」
「やああああッ」
遅かった。
まるで恐ろしい殺人犯に襲われた人間のように怯えた顔で、杉元さんはアシリパさんに背を向ける。
「これは何でもないッ関係ないッ」
「杉元杉元ぉ、もう一度よく見せてみろぉ、ああ？その子熊どうするつもりだぁ？」
彼女が舌なめずりするのを確認すると、彼はさらに体を縮こまらせ、彼女から子熊を必死に守る。
「こいつは俺が面倒見るッ母親代わりになるんだぁ」
「なるんだあ……って、子熊を育てた経験はあるのか？そいつが何を食べるのか知ってるのか？」
アシリパは普通に杉元さんに質問しているはずなのだが、かれのおびえかたが尋常じゃない。彼には彼女が鬼にでも見えているのだろうか。ヒイッなんて悲鳴まで上げてしまっている。
しばらくすると降参したように彼女に子熊を差し出した。
「わかった…こいつはアシリパさんだけで食ってくれ。こいつの脳みそに塩かけて食うとか俺には無理だ。」
「はあ？食べんぞ？」
「え？」
「てっきり食べるのかと……」
「私達は猟で子熊を捕まえたら、村で大切に育てる風習がある。」
それを聞いた杉元さんは安心しきったのかもう一度立ち上がり、子熊を抱えて彼女について行った。
「よし行こう。私のコタンへ！」
「こたん？」
「村のことだ！」
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
