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そこまで分かってしまえば、魔神にとって目の前の女は得体の知れぬものではなくなった。互いの齟齬を話し合えば泉の問題も解決するだろうからだ。今一番の問題は、女が憤怒一色であることだろう
女の感情に同調するように激しく揺れる水面が今にも襲いかかって来そうである
「この泉が、毒でなければ何なのだ!」
「貴様また言ったな!?」
「そうではなく!」
ただの質問のつもりであった。けれど選ぶ言葉を間違えたことに他ならぬ。女にとってしてみれば、これまた侮辱の言葉であろう
「…とんだ蛮勇だな、魔神モラクスよ。いっそ賞賛に値する」
女の右手が仄かに光り、ひと振りの槍が現れた。しかとそれを握った彼女が冷めた瞳でこちらを見る。一周まわって冷静にも見えるが、完全に眼が「殺す」と物語っている。
とうとう武器を取り出してしまってはもはや、言葉では止まらないだろう
魔神の顔に焦りが滲んだ。女が足を踏み込むよりも先に走り出す。互いの距離を阻んでいた泉に躊躇なく踏み込めば、ぱしゃりと高い音が鳴り雫が舞い上がった
己の衣服が濡れるのを気にする間もなく手を伸ばし、女の華奢な手を包み込むように掴み止める
「まってくれ。本当に、争うつもりはないんだ」
両手を掴まれた女は踏み込もうとしていた足も止めて、魔神の行動に心底驚いたように目を丸くしていた。息がかかる程の間近で見てみれば、つくづく整った顔である
握りこんだ細い手が動揺に固まるのを感じて、解きほぐすように絡め取ればその瞳に困惑が広がった。まるで恋人のような格好だが、逃げられはしないだろう
高く舞い上がっていた雫がパラパラと落ちて互いを濡らす。
魔神は言葉を発さなかったが、視線を漂わせた女はやがて槍を手から消した。幾分か冷静になったようだった
「……ちかい、離れてくれ」
細々とした声だった。魔神の手を払って、顔を押し退けるように突き出す
「話をしてくれ」
「…これ以上なにを話すことがある」
突き出した手はまた絡め取られてしまった。どうしても両手を離すつもりはないらしい。
近距離で睨み合うように目を合わせていたが、疲れた様子でため息を吐いた女は暫しの逡巡の末、諦めた顔で頷いた
好きにしろと呟いた声は怒りに塗れた鋭いものとは一変して、少女らしい弱々しさがあった
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藤宮(プロフ) - 玉ねぎさん» ありがとうございます。どうぞ楽しみにしててください! (3月17日 1時) (レス) @page6 id: 3b8ff94301 (このIDを非表示/違反報告)
玉ねぎ - 続き楽しみにしてます!((o(´∀`)o))ワクワク (3月15日 15時) (レス) @page3 id: fdec3c022a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2024年3月14日 17時