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魔神の言葉を聞いても女は動揺すら見せない
「いいや。私の領域だ。お前達がここで採鉱をはじめるよりもずっと前から、私はここにいたからな」
それは事実だった
「お前達が気付くことなく勝手に出入りし、勝手に荒らして、己の為にこの山を穢しているのだろう?」
女は冷たかった。
魔神が守護しているのが人間達だとすれば、女が守護していたのはこの鉱山だろう。魔神として世に産まれ落ちたときからここにいた。草を育てて木を育てて、己の神力をわけて泉を創った。ここが女の世界だった
「踏み荒らしたのはお前たちだ」
だから、穢らわしかった。
女の言葉を聞いて魔神はひとつ呼吸をおいた。
女に嘘を付いた様子はない。本当に言葉の通りならばなるほど、気付かず踏み荒らしたこちらの落ち度だ。だれだって己のテリトリーは守りたいし、大事だろう
そうだとしても、魔神は言わねばならなかった。現状をどうにかせねばならなかった。女に守るものがあるように魔神は民を守るのだ。はじまりがこちらの落ち度だとして、守るもの同士が交わってしまったのならば仕方がない。引くわけにはいかない
「荒らしたことは申し訳ない。元々いたのことに気付かなかったことも。けれど、悪意があってしているわけでも、この場所を荒らしたいわけでもない。彼らは生活の為に採鉱をしているだけだ」
魔神の真っ直ぐな想いを受け止めて、女は緩やかに足を組み鋭く嘲笑した。
ぽちゃりと、水面が揺れる
「それで。お涙頂戴、とでも?」
ハッ、笑えるな。そう続いた言葉に僅かに魔神が眉を顰めた
「…民の生活は物の流通で巡っている。俺やお前は食事を摂らずとも死なぬ身体だが、人間は違う。食べ物を手に入れる為には相応の対価が必要だと、わかるだろう。生活の為、生きる為、家族を養う為だ」
「へぇそう、感動的な生き方だ。私には全く関係のない話だが」
魔神が黙った。怒気を含んだ声にも女は態度を変えなかった。
それもそうだ。女からすれば「だからなんだ」という話なのだから。魔神の民の話なぞ知るか。部外者はお前達で、これ以上山を荒らすなという話をしていたのだ。人間の生き方など興味の欠片もない
女はにこりと笑って、道を示すように蓮をもっていない手をすっと差し出した
「素敵な演説をどうもありがとう。帰り道は回れ右だ」
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藤宮(プロフ) - 玉ねぎさん» ありがとうございます。どうぞ楽しみにしててください! (3月17日 1時) (レス) @page6 id: 3b8ff94301 (このIDを非表示/違反報告)
玉ねぎ - 続き楽しみにしてます!((o(´∀`)o))ワクワク (3月15日 15時) (レス) @page3 id: fdec3c022a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2024年3月14日 17時