飛花落葉のように_1 ページ1
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「モラクスさま、どうかお助けください」
民の嘆きを聞いて岩の魔神は事態の全貌を知った
話してみよと救いの手を差し出した魔神に、民は嬉々として口を開く
魔神がいま目にかけている天衡の民は採鉱を生業としている。彼等は飲水として井戸水を利用しているが、ある日、採鉱場所の近くに泉を見つけたのだという。それは言葉には出来ないほど澄んだ水で満たされており、とても美しい蓮が咲いていた
「蓮、だと?」
「はい、はい、そうなのでございます」
なんとも妙である。蓮とは本来、泥中に咲くものだ。少なくとも澄んだ水中では上手く咲くことはない
しかも民たちはその妙な泉に近付いたばかりか、口にしたのだという。魔神からすれば考え難いことだった。なぜ人間たちはそれが人体に影響を及ぼすかも分からないまま手を出したのだろうか
古来より、美しいものや神秘なものは人を惑わす。そしてそのどれもが良い結果を齎しはしない
「それで?」
魔神はそっと囁いた。民は顔を真っ青にさせて、どうか見捨てないでくれと地に額を擦り付けた
そんなことをしなくても、別に見捨てはしない
「採鉱は、いかんせん力仕事ですから、みな喉が乾くのです」
「そうだな。だから、井戸を掘っただろう」
「はい、はい、しかし」
その井戸とて生活圏内にある。採鉱は鉱山でするものだ。飲水を欲するたび山を下っていてはキリがない。けれども喉は渇く。ならば、より近くに飲めそうな水があれば、思わず手も出してしまうだろう
それが泥水ではなく、まるで天上から捧げられたような清水であれば尚のこと
「そうか」
人の渇きとは、それほど判断能力を鈍らせることもあるのか─と、人と造りのちがう魔神には、そんな薄っぺらい返ししかできなかった
「モラクスさま、どうかお助けください。このままではしんでしまいます」
泉の水を飲んだ者達は初め、その美味さに大層よろこんだ。これからは仕事中の飲水に困ることはないと。しかし異変は直ぐに起こった。水を口にした者達が次々に倒れだしたのである
もがき苦しむ彼等は戯言のように繰り返した
曰く、それは毒の泉なのだと
「倒れた者たちは」
「今はまだ、なんとか持ちこたえております」
異変が早かったが為に飲んだ者達が少数だったのは、幸か不幸か
しかし早急に対処せねば、いずれ死人が出るだろう
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藤宮(プロフ) - 玉ねぎさん» ありがとうございます。どうぞ楽しみにしててください! (3月17日 1時) (レス) @page6 id: 3b8ff94301 (このIDを非表示/違反報告)
玉ねぎ - 続き楽しみにしてます!((o(´∀`)o))ワクワク (3月15日 15時) (レス) @page3 id: fdec3c022a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2024年3月14日 17時