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「あいつも大変だな。荒船なんかに目をつけられて」

「どういう意味だそれ」




山田と入れ替わりで隊室に入ってきた穂刈がそう言い出すのを軽く睨みつける。


扉の向こうで山田がちゃんとランク戦ブースへ向かったのを確認して、俺はさっきまであいつが寝転がっていたソファに腰を下ろした。




「あいつは俺がちゃんと見てないとすぐ逃げ出すからな。」

「お前も飲むか?コーヒー」

「いらねえ」




山田はとにかくサボり癖が酷いのだ。


俺が知っている中であいつが合同訓練に出たのは過去に2回だけ。それよりも前のことは分からないが、周りの狙撃手(スナイパー)たちの話によればあいつは昔からサボりの常習犯らしい。


山田が合同訓練をサボろうとする様々な理由には、どれも根本に『目立つのが怖い』という気持ちが隠れている。誰に何を思われるのかで常に不安なあいつにとって、それは変えることの出来ない性根なのかもしれない。


それでも。




「俺はあいつに期待してるからな」




人が集まる合同訓練やギャラリーの多いランク戦など、自分が目立つような行為をあいつは依然としてやりたがらないが、それを強制されればなんだかんだどこでも優秀な成績を収めている。


ポテンシャルだけは高い山田には、そこまで導いてやる師匠の存在が必要なのだと俺は思う。


それなら俺がその存在になってやりたいと、初めて『三輪隊の山田』を見たとき強く思った。


だからあの日、廊下の隅で蹲っていた『ただの山田』の姿を見て、声を掛けずにはいられなかったのだ。


その日から俺は師匠として山田を完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)に育て上げようとしているが、そもそもあいつが本当に完璧万能手になりたいと思っているのかすら分からない俺に、あいつの師匠を名乗る資格はないのかもしれない。


それでもこの行動が、熱意が、いつかあいつの役に立ってくれることを信じて。




「俺ももっと、頑張らなきゃな」

「何をだ」

「お前まだ居たのかよ!!」




いつしかログで見たA級のランク戦、パソコンの画面の中で淡々と敵を撃ち抜いていく三輪隊のあいつは確かに『A級部隊の狙撃手』だった。


見蕩れるほど繊細なその技術に、冷静でもどこか重圧(プレッシャー)を感じるその瞳に。目を奪われたあの日を、俺は一生忘れない。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「でも荒船より山田の方が先輩だよな。ボーダー歴的には」

「……」

CHAPTER3 古寺章平→←・



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作者名:藤丸 | 作成日時:2023年2月26日 23時

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