【ヒプノシスマイク短編集】惑溺

51.クロノスタシス(飴村乱数) ページ3

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Aのすべてがボクで構成されていたならよかったのに。愛をああだこうだと定義するのはもう飽きたから、ボクはこの不毛な思考を執着だと思うことにする。ボクはおまえに執着しているのだった、悲しいことにね。雨が降り止まないのでイライラする。飴をがりがりかみ砕く。
A。どうしてボクに近づこうだなんて思ったんだ。おまえがインスタのタイムラインに流されているうちにもう、可哀想に、ボクの洗脳は進行している。執着は臓腑をむしばむばっかりで、なんの役にも立ってくれないね。
おまえがぼくの名前をその声で呼ぶのが、とっても大嫌い。ただ凌辱したい。その、期待を、肢体をけがしたいだけ。誰にも奪わせない。そういうボクの、最底辺のラブストーリーは、最底辺なりにハッピーエンドを迎えるべきなんだよ。

部屋の隅に転がった注射器とか、いつまでも止まって見える壁掛け時計とか、垂れ流しのニュース番組とか、机に散乱した白とか、吐瀉物とか、血とか、かみそりとか、27時19分とか、酒とか、ああああ全部！！！全部。

おまえが好きなんだ。
これまで殺したやつらから奪った命ぶんおまえを正常に愛したいんだ。
シブヤは何も知らない無垢な、何でものみこんでしまう無惨な、いつだってたりないままの何かを無限に求める街だって俺は知っている。クスリとか性とか酒じゃ埋められない永遠の穴を。狂ってるからこの街が好き。おまえひとり、ボクひとりおかしくなったって誰も咎めやしないよ。
クロノスタシスを知らないばかなAがまた笑う。ボクだって笑う。なにも知らないみたいに。

「ほら、そう、アハハ。ゆっくり吸って」
「かわいいね。おめめがふわふわするの？」
「ハハハハ！うん。ボクAのことだいすき。愛してる」
「たのしい？死にたい？おかしくなっちゃった？」

星色の目玉がボクを透きとおり、何もない壁際を見ている。幸せだと笑うその顔に、ボクは無性に、ああ、嫌いだなあと思った。ううん、嘘、大好き。死んでほしいくらい大好き。ボクの手を握らなきゃ眠れないおまえ。ボクにキスされないと息ができないおまえ。子供みたいな表情でなにもかも壊れていて、泣き顔がすっごくかわいいA。あどけなさなんてどこにもないボクらは、きっと地獄に行くだろう。

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