【ヒプノシスマイク短編集】惑溺

52.グラデーションラヴ(白膠木簓) ページ4

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悲しい歌が聴きたくなった。帰り道がむなしかった。いやに胸のあたりが痛んだ。血のにおいがはがれてくれない気がした。はじめて人を殺した。深夜。自販機。赤信号。呪い。「さむいなあ。」
俺は頭がおかしい。霧みたいなもやがかかった夜に痛いほど分かった。Aの笑顔に狂わされてる、俺は、もう救いようがない。だってもう未来のことを考えている。Aちゃん来てくれるやろか、とか、恋人の葬式ではどんな表情するかな、とか、泣くかな、とか、泣いてたらまた嫉妬してまうな、とか。(病院行かんでも病気ってわかるわ)(Aちゃんの泣き顔かわいいやろうなあ)

他人の未来を奪って得る未来への展望は、かぎりなく明るい。
息はしろく。空はくろく。相対の二色だけは俺を黙ったまま責めたてたけど、どうにも、どうにも。恋は盲目とはよく言ったもんで、俺はAちゃん以外のすべての命が失われようがどうとも思わない。その中のひとりめがいなくなっただけで、なにをぼやぼやと思い悩む必要があるのか！(狂ってる)(その感覚に乗っ取られるのは妙に気持ちがいい。)
刃を肉に押し込む瞬間の心地がまだ張り付いている。命のかたちをじかに触っているようで不思議で、楽しいと思ってちょっと笑った。びかびか輝くネオンが劈く。遠くクラクションの音。歩いている自分の鼓動。影。Aちゃん。好きという感情はいつからか屈折してしまったけど、まだたぶんキミに恋をしてます。
次はいつ会えるかな。もう寝てるやろか。家行ってみよかな。電話してみよかな。人殺しにも笑ってくれるかな。いつかは俺のこと好きになってくれるかな。そしたらいっぱいくっついて、ぎゅっとして、チューしたいな。

よし！もうなんにも怖いことなんかない。曇った深夜なんかどうでもいい。気に留めなくていい。心配ない。Aちゃんにすきですって、今なら言えそうな気さえする。あ、いや、それはまだ早い。
すっかり明日が楽しみになって、俺は早足で家を目指す。これからも、Aちゃんを好きでいる以上、邪魔なやつはごまんと出てくるやろうけど、そんなん全員殺せばいい話で、悩みの種にすることすら惜しいな。俺ははじめて、裏からも表からも、この恋情がやっぱり正常であることを確認した。
腕時計はもう26時をさしてる。Aちゃん！またキミのせいで寝不足や。ああ、厭や。うそ。ほんまはめっちゃ、死ぬほど、ううん、キミの恋人殺してまうぐらい大好き！

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