【ヒプノシスマイク短編集】俗悪

41.swap the affection (天谷奴零) ページ42

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思ったよりも上手くいった。手鏡で自らを映すAは、顔を歪めて、荒くなった息を整えようと焦っている。それなのに明日を諦めないような眼差しに、俺は滑稽だと思ったし、それがなによりも好きだった。
「これで一緒になった」
小さな体躯をぶるぶる震わせて、Aは恐ろしそうに俺を見る。覇気がこもっているようなのに、罪を揶揄う子供のようなその表情に、俺は笑って、何となく愛おしくなって、Aを抱きしめた。

星や花や雪の美しさだけじゃ、人間は腹いっぱいにはならない。すり抜ける光の粒を掴む、幻想への没入じゃ満足できない。
この世はいつだって薇仕掛で動いてやがるんだ。なら愛だってそうだ。
ご都合主義人生じゃあつまんねえだろう。

「瞳孔が、ほら、俺のと一緒で綺麗だ」やっと。
やっと一緒だ。
血で濡れたタオルのきらめきは、オオサカの喧しいハイビームのそれと似ていた。決して光とは言えない反射が、俺とAの運命の門出を、あくまで喜劇的に祝福しているように見えた。
生臭い部屋でよっつの瞼が閉じたり開いたりする度に、ああ、生きている、Aと共に生きていると思える。呼吸なぞただの飾りで、それ以上でもそれ以下でもなく、そう、レールを外れて止まらない愛には、「生」としか形容できない。
「ひとを動かすのはカネでも権力でもなく、結局ただの愛でしかないんだって、そう、ロマンチストの俺は思うわけさ」そうだろ？
左右で違えた色の目は、夜明け前の暗がりの中でさえやけに輝いてみえた。お互いにそうなはずだ。覗き込むその双眸には、ノイズのような不可解な笑顔を描く男がうつっていた。

涙がたっぷりと張った眼球は元のあるじを恨めしそうににらみ、俺もまた、Aの息づく左眼に熱を抱きながら、しばらく見つめ合っていた。
Aは不格好に、片目から涙を垂れ流しながら嗚咽をもらした。雑音をあげてしゃくり上げるたびに、俺は心臓を握り潰され、病名のない患者に成り果てていく。どうにもならない。不毛だ。無意味だ！
もう戻れないんだから。この視界がAの見る視界であることを。Aの視界が俺の見る視界であることを。もう知っているんだから。絡み合わない目線のせいで雑音が増幅して、なおも響く。俺たちだけには唯一、何の罪もないかのように。

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先に書けちゃいましたのであげます
イルマも執筆中ですのでご安心を…

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