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39.無明長夜(波羅夷空却) ページ39



「きちんと送れたか?」
残酷なことに、末那識が張り巡らせるその塊が何色かはわからなかった。冬に近い温度の風が吹いた。吐きそうなぐらい青い青い空が嫌いだった。かじかむ手は繋いだままがよかった。
Aは眼をしばたたかせて、やがて俺の影だけを追うように伏せた。そして携帯を差し出した。その一連の動作は愛の証明にほかならない。
「さようなら、……五文字だけ!A!エライなあ。やっとあいつとオサラバだ!アハハハ、これで終わり!」
だあれもいない公園に俺の笑い声がこだまして、いやでもそれは、俺の声じゃあない、破裂音みたいな最低な響きをふくんでいた。
「…空却くん、やっぱり、わたし、」
「あ?」
Aは俺の目線からまた逃げる。長夜のような長い空虚のあとで、Aは俺といるのがつらいと言った。寒々しい空気がまた流れ
た。
「帰んぞ」

俺たちの家に帰ると、Aの手首はもうあかくなっていた。空の色も忘れられるような赤で、俺はそこでようやく目が覚める心地がした。冷たい雲の流れも街の喧騒静寂も、太陽も星も月も車も人々も冬も希望すらここには無い。要ら無い。無明。

「Aはなあんにもしなくて良い。全部拙僧がやるからな。」
「いや、わたし、いやなの、いらない」
「…………心配せんでいい。あいつとやアっと別れられたんだ、今日からは自由だろ。Aは俺だけ愛せばそれだけで良い。」
部屋の中は暖かかった。愛の体温は冬のそれより高いらしい。どうしようもねえ単純な執着に、薫きこんだ白檀の香が、不釣り合いな上品さを醸し出していた。
もう窓の外には嘘みたいな青はいなくて、徐々に紫がかって滲む。これが最後の空ならば、きっとここが終着地点で、浄瑠璃の世界なんだろう。煩悩染みた須臾の夕焼けが、Aの指先をつまびらかにすることを許さない。劈くように光が俺たちを分かち、(ああ、きっと、)俺たちは一緒にはなれない気がした。
さようならの五文字を飲み込むように、音もなく接吻をした。何もかもこいつにあげたいと思った。だから言葉をききたくなかった。
「こんなに愛しとるのに。」
虚しいささやき声は、ただ、交わらないAの視線に殺されて消えた。

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タメィゴゥ - めちゃ面白かったです!ド好みです!ありがとうございました! (2019年12月23日 18時) (レス) id: 98d1675711 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - タメィゴゥさん» リクエストありがとうございます!そういうのめちゃ好きです!遅くなるかもしれませんがサマトキ了解しました! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
タメィゴゥ - すみませんリクエスト良いでしょうか? もしよろしければ左馬刻様が夢主にでろでろに依存してしまい離れられないお話を書いていただけませんでしょうか? リクエストがもはやキャラ崩壊ですがよろしければお願いします。<(_ _)> (2019年12月2日 19時) (レス) id: 78b2b55a96 (このIDを非表示/違反報告)
43沿い(プロフ) - 林檎麻さん» こちらこそありがとうございます!!!はらいくうこうくん、了解しました!ちょいムズですね…がんばります (2019年11月6日 21時) (レス) id: 8c7ee14403 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - いつも素晴らしいお話をありがとうございます…とっても好きです…愛してます…。リクエストでよかったら波羅夷空却くんをお願いしてもいいですかね…??応援してます…!! (2019年11月3日 2時) (レス) id: 5fe5e3438d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:43沿い | 作成日時:2018年8月31日 0時

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