桜の花弁に映る星 ページ30
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「花火をしたのか？ それは楽しかっただろうな！」
姐さんが私の背中をばしばしと叩く。
鍾離とタルタリヤと別れた私は、その夜のうちに死兆星号に乗り込む準備を整え、翌日、璃月を発った。
姐さんは私を喜んで迎えてくれて、この船はもうすぐ稲妻に到着する。着いたらまずは鳴神大社で、神子と会うつもりだ。神子から影さんに話をつけてもらい、彼女にもう一度、会う。
「おっ、見えてきたぞ。また乗ってくれよ、あんたならいつでも大歓迎だ」
「姉君はティア殿の料理が食べたいだけであろう？」
「ハハッ、まあそうとも言うな。気をつけて行ってこい！」
万葉と、ちょっとだけ酒臭い姐さんに送り出され、離島の港に足をつける。ちなみに今日の私は一切酒を口にしていない。
本当はものすごく飲みたかったけど、改めて神子と会うのに酔っ払っていたら、情けないからね。
入国手続きを終え、地図を開く。以前来たときはトーマに手続きをしてもらったけど、遠国監察の人もそれを覚えていたようで、法外な手続き料をふんだくられることはなかった。
まずは鳴神島に行って、白狐の野を抜けて参道に向かおう。
今回は旅人も社奉行も、私が稲妻に行くことを知らない。
目的は神子と影さんに会うことだから、社奉行にはお世話にならなくてもいいだろうと判断した。
道中のヒルチャールたちを刺激しないように、離れて歩く。浅瀬を伝って鳴神島に到着したら、白狐の野を通過する。
参道を上り、桜の花びらが降りそそぐところまでやってくると、神櫻が見えた。相変わらず堂々と佇んでいる。
「こんにちは。八重宮司に会いたいんだが、彼女はいるかな」
「おや。寂しくなってとんぼ返りか、紅涙先生？」
ゆったりとした色香のある声が、背後からかけられた。
振り向けば神子がいて、おかしそうに口元に手をやる。
「そんなに妾に会いたかったのか？ 仕方のない男じゃのう」
「ああ。きみに、会いたかった」
からかうような微笑が消え、彼女はわずかに目を丸くする。私が素直に思いを口にしたからだろうか、神子はすこし驚いたあとに、肩を震わせて笑い始めた。
「熱烈じゃな。妾に惚れでもしたか？」
「思い出したんだ。きみのことも、全部。だから、将軍に……影さんに、会わせてくれないか」
「……思い出した？ 何をじゃ？」
神子はとぼけるように言った。本当に記憶が戻ったかどうか疑っているのだろう。それも、仕方のないことだ。
「きみや影さんが、おれの大切な友達だってこと」
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
